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第13話 誕生日(4)
けれど、直接、踏み込むことなく、ハナが立ち直るのを待ってくれた。そして、こうして仲間として認めてくれた、その心が、ハナは泣いてしまいそうになるほど嬉しかった。
「もう、大丈夫です、みんな、ありがとう……」
「あっ、泣くぅ!」
「もらい泣くぅ!」
「ちょっ、あたしもっ!」
「ちょっと、あたしもっ!」
ルナが復活した今、五人でステージに立つことはない。が、ルナとネネとミキとオトハと、みんなで歌い、踊ったステージは、一生の宝物になる、とハナは思った。
明とテラも、顔を合わせて、グラスをカロン、と揺らし、互いに乾杯した。
ハナは、ケーキの角を切り取り、口に入れた。みるみる楽しい想い出と一緒に、甘く蕩けていく。
今日もらえた一番のご褒美だ、とハナは嬉し泣きしながら思った。
*
食事会という名の打ち上げが終わり、明が車で「フィオーレ」たちを送っていった。
フィアットでは定員オーバーになるので、いつも明が車を出すのだそうだ。「フィオーレ」たちを先に帰したテラと一緒に、ハナは、しばらくの間、駐車場で明の帰りを待っていた。
アルファと二人きりだというのに、テラと一緒にいても、気まずさを感じることはなくなっていた。出逢った頃は、互いに嫌味の応酬で、喧嘩ばかりで、気の休まる間もなかったというのに、今、こうして並んでいると、心地よい沈黙に満たされるのが、不思議だった。
「あの、テラ。明日、ですよね。……よろしくお願いします」
純潔を捧げるのがテラで良かった、とすら今は思う。切り出すのは恥ずかしかったが、ちゃんと念押ししておかないと、ライヴが無事に終わった開放感にあてられて、約束を忘れてしまいそうになる。自戒の意味も込めて最終確認を取ると、テラはなぜか迷うように、ハナをチラリと見た。
「本当に、いいのか? きみを……」
「テラが言い出したことじゃないですか」
「そうだが」
てっきり任せろと言われる気がしていたので、躊躇いを見せたテラを、ハナは少し不思議に思った。
それともテラは、まだ綻んでいない、ハナのような、蕾の状態の男のオメガには、そそられないのかもしれない。本人が望んでいないのに、無理矢理に押し付けるのは如何なものかと思いもしたが、約束はちゃんと守りたかった。
何より、水族館へ行ってから、ずっと性的な接触がなかったせいか、テラのことを考えると、身体の芯から熱が湧き出しそうになる。ハナは、慣れないその情動に堪えながら、これはきっと、期待なのだろうと思っていた。
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