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第13話 誕生日(5)
「あなたが相手で、良かったと思ってます。怖くないと言えば嘘になるけど、ぼくのことをちゃんと見てくれるから。それに、あなたとは、悪いことばかりじゃなかった」
「ハナ、わたしは……っ」
テラが何かを言いかけ、ハナを振り返った時、駐車場に明の車が戻ってきた。ヘッドライトに照らされて、二人の影が浮かび上がる。「フィオーレ」たちを送り終えた明は、テラとハナのちょうど前に車を停止させると、運転席側のウィンドウを下げ、上機嫌で言った。
「何だ、二人して、また喧嘩か? いい加減にしろよ、テラ」
「なぜわたしなんだ」
「お前しかいないだろ」
笑って、ハナに助手席に乗るよう促す。
ハナは車に乗り込む前に、身体をかがめて言った。
「兄さん、明日、テラのところへいく用事があるんだけど」
「用事? 何だ?」
もう衣装をつくる必要も、フィッティングに通う必要もない。ハナは少し言い淀んだあとで、嘘をついた。
「えっとその、アトリエをじっくり見たくて。だから」
「何度も見てるじゃないか」
「そうだけど、見納めに?」
しどろもどろにならずに辻褄を合わせることに、細心の注意を払ったが、明は、何かと言うと、オメガオメガと煩かったテラが、ハナと和解したと解釈したようだった。
「見納めなんて、俺に言えばいつでも連れてってやるよ。テラのところぐらい」
「うん。だけど、明日はそういうわけで、迎えに来てもらうことになったから」
明の言うとおり、頼めばいつだって、受け入れてもらえるだろう。
だが、最後まで身体を重ねてしまったら、もうテラの顔を、ちゃんと見られなくなってしまう気がした。
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