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第14話 その日(2)
テラの威嚇は、的確に牧野の痛い場所を突いたようだった。頬を紅潮させ、テラに向かって言い返せない分、牧野はハナに対して悪態をついた。
「ぼくの次は、この人か……っ」
非難を込めた口調の牧野に、テラは強い声で言った。
「次とは何だ? わたしときみが釣り合うとでも言うつもりか? 笑いぐさだな」
「っ……」
「この間から、監視まがいのことをしているのは、きみだな? 先日、監視カメラにきみの姿が映っていたことを、明も把握しているぞ。このことは報告させてもらう。ハナを傷つけるような言動をするよりも、自分の身を案じた方がいいのではないか? 牧野学」
「お、俺はまだ、何も……っ」
「まだ? まだとはどういう意味だ」
「ま、まだと言ったら、まだだ……っ」
虚勢を張り続ける牧野が、テラの言葉に崩れていく。テラは容赦なく追い詰めるつもりらしく、今まで見たことがないほど、憤慨し、鼠をいたぶる猫のように言葉を放ち続けた。
「ハナは「フィオーレ」の大事な一員だ。警告したぞ。次はないと思え」
「っ」
「カードキーを預からせてもらう。出しなさい」
「なんで……っ」
「わたしは明の関係者だ。きみが未だにハナにこだわっていることを、明が聞いたらどう思うだろうな? これ以上、無謀な行動をしない方が、きみの身のためでもある。身の丈に合った仕事を失いたくはないだろう?」
「テラ……」
ハナは聞いていられなくて、思わずテラの着衣の裾を引いた。牧野に非があるのは明らかだったが、彼をこれ以上、傷つけたくなかった。
衣を引かれて黙ったテラだったが、牧野に対しては厳しい威嚇のオーラを出し続けた。
牧野はハナに情けをかけられたことを悟ったらしく、震える手でカードキーをテラに差し出した。
「コピーはないな?」
「ありませんよ、そんなもの」
「確かに預かった」
静かにテラが確認すると、牧野はもう負け惜しみすら言わず、踵を返し、立ち去った。
「……ハナ、泣くな」
震えながらテラの着衣の裾を持っているハナに、背を向けたまま、テラが言った。
「きみのせいではない。だが、……すまない」
その言葉に首を振るハナの頭を、そっと振り返ったテラが、大きな手で撫でた。
「ぅ……っ」
嗚咽が漏れる。先日、癒えたと思った失恋の傷が、抉り返された気がしていた。
「もう怖いことはない。哀しいこともない。苦しいことも、きっとない。きみのことは、わたしが守る。安心しなさい。ハナ……」
首を横に振り続けるハナに、テラはそっと語りかけてくる。その言葉が優しさに満ちているほど、ハナは自己嫌悪に陥り、震えた。
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