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第14話 その日(9)(*)

 テラはパッケージを破り、口の中に──即効性のある舌下錠だろう──それを放り込むと、まるで全速力で走ったあとのように、運転席で無為にもがいた。 「ハナ……!」 「っ?」  しばらくして、テラがシートベルトを外し、ハナの肩を抱いて尋ねた。 「きみの抑制剤は、どこにある?」  抑制剤のせいで、理性が働くようになったテラが尋ねた。  発情抑制剤は、効き方に個人差があり、作用するフェロモンが微妙に違うので、アルファのものをオメガが使い回すことはできない。さらにハナの抑制剤は、医師の処方箋がないと手に入らない、セミカスタムされたものだった。  肌という肌が敏感になり、空気に触れているところから、快楽が流れ込んでくる。空気が攪拌されるたびに、毛穴の全てがテラの匂いに反応して開いてゆく気がした。 「ぁ、ゃ──……っ」  瞬間、波がきた。  ひゅっ、と喉が鳴り、ぞわりと総毛立つ。  テラに触れられるまでもなく、足の指が丸まり、全身が小刻みに震え出し、神経がむき出しになったような渇きがやってくる。無情にも、次の波が、またやってくる。 「っ……っ、ふぁ……っ!」  腹の中が潤んで、性器が勃起しはじめると、理性を凌駕した欲望に呑まれていく。 「テラ……ッ、おねがい、し」  して欲しい。  そう言いかけて、顔を上げると、目尻を赤く染め、歯を食い縛ったテラと目が合った。  刹那、それを言ってはならないと、ハナの、なけなしの理性が悲鳴を上げた。 「ハナ! きみの、抑制剤は、どこだ?」  もう少しで凌駕されてしまう欲望の渦の中で、テラはセンテンスを噛み砕いて、ハナに語りかけた。  したい。  もうしたい。  はやくしたい。  すぐにしたい。  たくさん、いっぱい、あふれても、止まらないで。  そんな言葉が脳裏を過ぎり、ハナは自分でもわからないまま、涙を流しながら涎で濡れた唇をテラに向かって差し出していた。 「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ」 「ハナ。わたしがわかるか。よくせいざいだ」 「ぁ……よ、よく」  よくしてほしい。  たくさんしてほしい。  こわれるまでほしい。  そんな言葉が頭を埋め尽くしてゆく。 「そうだ。抑制剤。どこにある?」 「かば、鞄……の、なか……っ」  中に入れて。出して。動いて。ずっとして。もっと、もっと、もっと。 「鞄っ? 家の中か?」 「んっ……ぁ、み、見な……でぇ、っ」  視線の強さにすら、感じてしまい、ぶるりと身体が震える。あまりの情報量に、脳の回路が焼き切れそうだった。こんなまともでない状態を、テラに晒すことが、恥ずかしい一面、快楽になる。  もっとひらいて、とわけのわからない言葉を呟こうとした刹那、さらに大きな波がきた。

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