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第15話 7つの理由(1)
夢にうなされ目を覚ますと、ベッドに寝かされていた。
頭が重く、頭痛がする。身体が熱く、膿んだようにだるい。
子どもの頃、インフルエンザで寝込んだ時みたいに、指一本動かすのが億劫だった。覚えのある天井に、ここが自宅の、ハナの自室だと思い至る。視線を巡らすと、ハナの左手をしっかりと握る大きな手があった。握られている手を思わず握り返し、そちらへ頭を向けると、テラの不安そうな顔が覗き込んできた。
「ハナ……」
「ぅ、……」
酷く叫んだわけでもないのに、喉が渇いて、声が枯れていた。
だが、テラは胸を撫で下ろしたような表情で、ハナの頭髪をするりと梳いた。
「よかった……。ここはきみの部屋だ。断りなく入ってしまってすまない」
頭皮にテラの指先が触れると、ツキン、と甘い感覚が広がった。
「きみは半日、眠っていたんだ。喉は渇いてないか?」
頷くと、テラはベッドサイドのサイドチェストの上に置かれた水差しから、グラスに水を移し、ハナの上半身を少しだけ起こすのを手伝った。
「ゆっくりでいい」
起き上がろうとすると、全身がだるく、節々が痛みに悲鳴を上げた。背中にクッションを当ててもらい、水を口に含む。砂糖が溶かしてあるみたいに甘くて、嚥下するたびに、今、自分が置かれた状況が、はっきりと認識できるようになってきた。
グラスに半分ほど入った水を三分の一まで飲み干すと、ハナはテラの方を見た。兄と喧嘩したはずだったが、そのあと、どうなったのだろうか。テラの頬の腫れは引いたようで、服装が昨日と違うことに気づいた。それで、自分がフィアットの助手席で粗相をしてしまったことを思い出した。
「ぁ……」
途端に顔が火照り出す。
布団の中の性器は腫れて、まだ熱を持っている。だから、現実なのだとわかった。
あんなことになってしまって、テラに迷惑をかけてしまったことが恥ずかしかった。
だが、テラは優しくハナの体勢を元に戻すと、再びハナの左手を握り、もう片方の手で、ハナの髪を梳いた。
「余計な心配はしなくていい。ゆっくり休みなさい」
安堵した顔でテラが言うのを聞いて、いたたまれなくなった。
「抑、制剤……」
「きみもわたしも飲んでいる。安心していい」
「迷、惑を……っ」
掠れた声が出て、喉の奥が痛んだ。
突発発情は、最初にオメガだと判明した時に、一度だけ経験しているが、その時はすぐに薬を服用して、意識が飛ぶようなことはなかった。
けれど、今回は間に合わなかったのだ。朦朧とした中、何か失礼なことを言わなかったか尋ねたかったが、勇気が出ない。
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