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第15話 7つの理由(2)
震えながら、テラの手を握り、許しを請うより他に、できることがなかった。
「何を言う。そんなことあるものか」
穏やかな顔でハナに言い聞かせるテラは、目尻が少し潤んでいた。睫毛が光を含み、キラキラと反射するのが美しい。
何か問いたそうな表情をしたのかもしれない。テラがベッドサイドに置かれた椅子から身を乗り出し、言った。
「明とは、昨日、休戦協定を結んだ。フィアットの中で意識を失っているきみに、わたしと明で薬を飲ませ、家に運び込んだんだ」
そして、今日の夕方、抑制剤の作用が抜けた頃に、往診医がくることになっていること。昨日から、明と交代で、眠るハナの横に付き添っていたこと。今、明は別室で、ハナの目覚めるのを、待っていること。テラが明に無理を言って、付き添いをさせてもらっていることなどを、ゆったりとしたペースで話した。
テラの静かな語り口に、次第に落ち着いていったハナの様子を見たテラが、「明を呼んでこよう」と言って立ち上がろうとする。
ハナは、ぎゅっと手を握って押しとどめた。
「い、かない、で……」
「ハナ……」
もう少しだけ、一緒にいてほしい。
今、テラと離れたら、元には戻れない気がした。せめて恋がかなわないのなら、諦めるための猶予が、少しだけ欲しかった。
「あなたが、ぼくを……抱かないなら、少しだけ……っ」
「っ」
トロリとその瞬間、表情が潤んだのが、ハナ自身にもわかった。
テラは、息を詰めて耐えるような表情を一瞬だけ見せ、それからベッドサイドの椅子に座り直した。そっとハナの髪を梳き、苦笑する。
「わたしが、抑制できているからいいものを、他の男にそんな顔を見せては駄目だよ」
言って、手をぎゅっと、指の間に指を入れる形に、握り直される。
「今のきみの姿は、わたしの目には毒だ」
「テラ……」
そこまで言うなら、少しぐらい乱れてくれてもいいのに、と思った。ハナには、テラが、自分を抑制しすぎるぐらいに、冷静であるようにしか見えない。
いつの間に、こんなにテラを好きになってしまったのだろう。牧野のことが霞むぐらいに、テラに執着している自分のことが、わからない。
まだ舌が痺れて、上手く回らない、その口で、テラは何も悪くないのに、フィアットに押しかけてテラのことを責めてしまったことを謝罪した。本来なら、しつこく付きまとうオメガを、放り出しても文句は言えないのに、テラは優しいから、そうはしなかった。明の弟だから、無下にできなかったのだろう。
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