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第15話 7つの理由(3)

 テラの服装が変わっていることからも、自分がいつの間にかシルクのパジャマに着替えていることからも、昨日はきっと、たくさん汚してしまったのだと思った。  テラに、どう謝罪すれば許されるのか、知りたかった。  だが、ハナが罪悪感から話を切り出すと、テラはきっぱりと否定した。 「それは違う」 「でも……」  テラは、しばし沈黙したあとで、眉を寄せて一段、低い声を出した。 「きみを抱かないのには、幾つか理由がある」 「理、由……?」  ハナが問い返すと、テラはそっと金色の睫毛を伏せた。  そのまま、まるで祈るように、ハナの手を両手で握る。 「ひとつは、きみが明の弟だからだ。彼に知られたらどうなるかは、わかっただろ」 「それが、理由、ですか……?」 「まだある。きみの誓約は、書類上、履行され、今は効力が切れている。読めないからといって、誤魔化すのはわたしの主義ではない。それにきみが、ルナのために自分を犠牲にする必要はないと思った」 「それ、が……?」 「それに、牧野に失恋したばかりのきみに、無理強いするのは違うと思う」 「それ、は……」 「それに、オメガは運命の相手とつがうべきだ」 「っ」  運命の相手がテラではないと、言われたも同然だった。ハナは哀しい顔をしたのだろう。  テラはどこか寂しそうにテラは笑い、付け足した。 「理由はまだある。きみが、わたしを愛していないからだ」 「テ、ラ……」  その言葉は放つ者が痛みを伴う言葉だった。  同時に、放たれたハナの心も、傷つけるものだったが。  そしてテラは、ハナが傷ついたのを、自身への同情だと受け取ったようだった。 「きみにだって、愛する人と結ばれたいという気持ちはあるだろ。それを尊重したいだけだ。それに、きみがオメガだから、というのも、理由のひとつではある。もっとも、今はきみがオメガで良かったと思っているが」  テラによって示された、言葉の数々が、ハナを切り裂いてゆく刃のようだった。  しかし、ハナはそれを受けてもなお、テラの示す理由が知りたい、と思ってしまった。 「それが、理由、ですか……?」 「──そうだな。まだもうひとつある。でも、これは言えない。言うべきではないんだ」  言うと、テラは長い溜息をつき、ハナの手をそっと羽毛布団の中へと入れた。 「もう眠りなさい。身体に障るといけない」 「でも、テラ、ぼくは……っ」 「気になるか? それとも知ってるくせに、わたしに言わせるつもりか?」  意地悪だな、とひとりごち、ハナの額に掛かった髪を一房、撫でると、肩のところにあるハナの布団の縁を、顎まで引き上げた。

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