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第16話 兄の提案(1)

 ひと眠りすると、熱が完全に引いた感じがした。  往診医から、後遺症らしきものはない、と太鼓判を押されると、明もテラも、あからさまにホッとした顔をした。  しっかり眠って体力を回復させたハナは、もうすっかり元気な気がしていたが、医者から、念のために二、三日は用心するよう言われたため、過保護な明に命じられて、ベッドから出たのは三日後だった。  テラは責任を感じているせいか、毎日、決まった時間に見舞いに来てくれた。三日目にベッドから立ち上がると、少し足元がぐらぐらしたが、顔を綻ばせてハナの回復を喜んでくれた。  テラと他愛のない話をして、暇乞いを受けた時、ちょうどノックがあり、明が入ってきた。テラとなるべく二人きりにしたくないという兄の気持ちはハナにもよくわかったし、テラも、ハナと面会する時は、扉を半分、開けたままにしておくよう気をつけていた。 「何もなかっただろうな?」  入ってくるなり、バツの悪そうな顔でボソリと尋ねる。 「もちろんだ。そこは信用してもらっていい」  ハナは、まるで憑き物が落ちたみたいに、テラの匂いに悩まされなくなっていた。抑制剤の処方を少し変えてもらったのが、効いているようだった。 「あの、テラ」  帰ろうとするテラに、せめてお礼を、と思ったが、うまく言葉にならなかった。  テラは何でもないという風に首を横に振って、微笑した。 「まだ本調子じゃないだろう。何も考えず、ゆっくり休みなさい、ハナ」 「は、い……」  何か言わなければと思うが、心が焦って言葉が出なくなる。  ハナは、兄のいる手前、そう我が儘に甘えることもできず、大人しく去って行くテラを見送るしかなかった。本当は尋ねたいことがあったのだが、またの機会を待つしかないようだ。 (それに、ぼくがテラを想いすぎて、意識が混濁したのかもしれない……)  最初に目覚めて、テラと会話した時、眠り際に何か言われた気がしたが、気のせいかもしれなかった。  ハナがぼうっとしていると、やがてテラを見送った明が、ノックとともにハナの部屋へ入ってきた。 「……それで?」  テラのそれまで座っていた椅子に腰掛けると、明はハナに問うた。 「大丈夫なのか?」 「え? ええ、たぶん……」  体調のことを尋ねられたのだと思ったハナが、何の問題もないと答えると、明はやにわに大きな溜め息をついた。 「何だそれは」 「?」  兄が何に失望したのか、わからないでいるハナに、明は自戒を込めて言葉を選びなおした。 「いや、言い方を抽象的にしすぎた俺が悪いか。テラとの間には、何もなかったんだろうな? ハナ」

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