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第16話 兄の提案(2)
「もちろんです。何も、ありませんでした……。テラは、そんな人じゃないです」
単刀直入に切り込まれて、明がテラとの仲を心配していたのだと、気づく。
だが、本当に何もなかったのだ。テラは、極めて紳士的で、手を握ったり、背を支えてくれこそしたが、それ以上のどんな接触もなかった。まだ彼のペントハウスへフィッティングに通っていた時の方が、接触が多かったと言えるぐらいだ。
明は、それをどう受け取ったのか。どちらにしろ、過去のより未来の話をしてくれたのは、ありがたかった。
「これから、どうするつもりだ? テラとは逢うのか? 個人的に」
「それは……」
テラとの関係を兄に咎められたら、もう成人したのだから、と言おうと思っていた。誓約書が破棄された以上、テラとは、もうただのプロデューサーとバックアップメンバーに過ぎない。テラからハナに用事があることも、ハナからテラに何かアプローチする機会があることも、ほぼなくなるだろう、と思った。
「わからない、けど、テラとはたぶん、いい友だち……いや、知り合い、になるのかな」
だから心配いらないよ、兄さん、と言おうとすると、じっと聞いていた明が天を仰いだ。
「あいつ本気か」
「え?」
何のことを言っているのかわからず聞き返すハナに、明は念押しするように再び言った。
「本当に、テラと二人でいても、何もなかったんだな?」
「うん……」
頷いてほしくなかった、と言う顔で、明はしばらく何かを考えていた。が、やがて組んでいた腕を解くと、席を立って窓辺へと移動した。沈みかけた西日が傾きつつ入ってくる。明は、少し眩しげに、薄いカーテンを引くと、ハナを振り返った。
「それで、お前は、どうするつもりだ? ハナ」
「どうするって、何が?」
「何がって……テラのことが好きなんだろ」
「えっ……!」
ハナが聞き直すと、「違うのか?」と明は明け透けに畳み掛けてきた。
「ど、どうして」
不意に顔がカアッと火照り出す。ハナが聞き返すと、明はまるで情けない弟に脱力するかのごとく、肩を落とした。
「見ればわかる。見るからにガッカリしやがって……。あいつはあいつで、一生懸命、我慢しましたみたいな顔しやがって……ったく」
「に、兄さん……」
知られてしまったことは仕方がないが、ハナは焦って明に縋り付いた。
「く、くれぐれも、このことは、ぼく、と兄さんの、秘密に……」
「何を言ってやがる」
「だって、め、迷惑になるだろ……っ。ぼくがテラを、その、追いかけたり、したら……」
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