67 / 108

第16話 兄の提案(2)

「もちろんです。何も、ありませんでした……。テラは、そんな人じゃないです」  単刀直入に切り込まれて、明がテラとの仲を心配していたのだと、気づく。  だが、本当に何もなかったのだ。テラは、極めて紳士的で、手を握ったり、背を支えてくれこそしたが、それ以上のどんな接触もなかった。まだ彼のペントハウスへフィッティングに通っていた時の方が、接触が多かったと言えるぐらいだ。  明は、それをどう受け取ったのか。どちらにしろ、過去のより未来の話をしてくれたのは、ありがたかった。 「これから、どうするつもりだ? テラとは逢うのか? 個人的に」 「それは……」  テラとの関係を兄に咎められたら、もう成人したのだから、と言おうと思っていた。誓約書が破棄された以上、テラとは、もうただのプロデューサーとバックアップメンバーに過ぎない。テラからハナに用事があることも、ハナからテラに何かアプローチする機会があることも、ほぼなくなるだろう、と思った。 「わからない、けど、テラとはたぶん、いい友だち……いや、知り合い、になるのかな」  だから心配いらないよ、兄さん、と言おうとすると、じっと聞いていた明が天を仰いだ。 「あいつ本気か」 「え?」  何のことを言っているのかわからず聞き返すハナに、明は念押しするように再び言った。 「本当に、テラと二人でいても、何もなかったんだな?」 「うん……」  頷いてほしくなかった、と言う顔で、明はしばらく何かを考えていた。が、やがて組んでいた腕を解くと、席を立って窓辺へと移動した。沈みかけた西日が傾きつつ入ってくる。明は、少し眩しげに、薄いカーテンを引くと、ハナを振り返った。 「それで、お前は、どうするつもりだ? ハナ」 「どうするって、何が?」 「何がって……テラのことが好きなんだろ」 「えっ……!」  ハナが聞き直すと、「違うのか?」と明は明け透けに畳み掛けてきた。 「ど、どうして」  不意に顔がカアッと火照り出す。ハナが聞き返すと、明はまるで情けない弟に脱力するかのごとく、肩を落とした。 「見ればわかる。見るからにガッカリしやがって……。あいつはあいつで、一生懸命、我慢しましたみたいな顔しやがって……ったく」 「に、兄さん……」  知られてしまったことは仕方がないが、ハナは焦って明に縋り付いた。 「く、くれぐれも、このことは、ぼく、と兄さんの、秘密に……」 「何を言ってやがる」 「だって、め、迷惑になるだろ……っ。ぼくがテラを、その、追いかけたり、したら……」

ともだちにシェアしよう!