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第16話 兄の提案(3)

 テラは明の弟だからという理由で、ハナに付き合ってくれているに過ぎない。突発発情したことに対して、責任を感じて、見舞ってくれただけで、ハナにはもう、十分だった。 「それに、テラに対して我が儘なんて言えないよ。テラにも立場ってものが……」 「お前はいったい、何を見てそんな馬鹿なことを言ってるんだ、阿呆」 「え?」  だって、決めたのだ。一人前になると。誰にも迷惑をかけない関係になれたら、その上でテラに告白しようと決めた。今のままだと、義務感から明に義理立てして、テラが身動きできなくなるんじゃないかと思った。そんな歪な関係になるぐらいだったら、告白なんてしない方が互いのためだ。 「お前なぁ……好きな感情が先行するのはわかるが、あいつの何を見てたんだ? 言っておくが、あれは本当に食えない男だぞ。よりによってあんな引きこもり予備軍みたいな奴にお前をやることになるのかと想像するだけで、言い方は悪いが、寝覚めが悪い。心臓に悪い。そして慙愧に堪えない……!」 「えぇ……」  ハナが考えすぎじゃないかと、混乱した頭を整理していると、明は続けた。 「だから、ちゃんとしろ。いいか」  そのまま歩いてきた明は、ベッドサイドの椅子に座り直し、姿勢を正した。 「テラの方から言うのでなければ、許さないぞ、俺は」  一瞬、何の話をしているのかわからず、ぽかんとしたハナに、明は眉根を寄せて苛立ちを露わにした。 「え、っと、ど、どうして……?」 「馬鹿か。決まってるだろ」  時々、明の思考スピードから置いていかれることのあるハナに、明はついてくるよう強いる変な癖があった。無茶苦茶だと思ったが、大事な話なので、従う以外の選択肢がない。 「恋愛なんて、惚れた方が負けなんだ。お前はオメガなんだから、せめて惚れさせて勝ち組になれ。食っちまうのはそれからだ。いいな?」 「く、食っちまう、って……」 「こんなこと、取り繕ったってヤることはひとつなんだから、しょうがないだろ」 「それは、そ、そうだけど……っ」 「テラの奴が誓約書の話をしにきた日のことを覚えてるか。あいつは、こう言いやがったんだ。約束をしたから、お前のことをもらい受けにきた。お前が欲しい、と。誓約書を書いたが、本気だと抜かしたんだ。俺の弟に、惚れているからと……!」 「!」  ハナはその言葉に、じんわり胸が暖かくなるのを感じた。  テラは約束を反故にするために、明に真実を告げたのではないのだ。もし、あの事件が、テラがハナのことを真剣に考えた末の行動なら……。それだけで、ハナにとっては十分すぎる贈り物だった。

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