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第17話 誕生日プレゼント(2)
「あの、兄さん。これは?」
テラとは、見舞いにきてくれた日以来、逢っていなかった。お礼のメールは出していたが、あんな醜態を晒したあとで、どんな顔をしたらいいか、見当がつかない上に、想いを自覚して初めて逢うのだ。緊張しない方がおかしい。
ハナが振り返り、兄を睨むと、明は席を立ち、テラを招いて、椅子に座るよう促した。
「お前に借りをつくっておくのは、精神衛生上、良くないからな」
椅子を挟んで明とテラが、両側から向き直ると、稲妻でも出そうな雰囲気だった。この二人は、まだハナが突発発情した時の件で、わだかまっているのだ、と悟ったハナは、暗い気持ちになった。
「座るなら、譲るぞ、テラ。支払いは俺がする」
明が恩着せがましくテラのために椅子を引いてみせると、テラはその椅子の背を掴み、言った。
「譲られよう。だが、支払いは先ほど、わたしが済ませた」
「お前、本当に嫌な奴だな」
明が苦笑し、揶揄するのを聞いて、ハナはホッとした。この分なら、殴り合いの喧嘩には発展しなさそうだ。明はテラを試しただけだ。難なく試練を突破したテラに、悔しげながらも、椅子と、ハナとの食事の機会を譲るつもりなのだ。
「……きみには本当に感謝している、明」
テラの言葉に明は視線を外すと、「じゃあな」と手を振り、踵を返した。
去り際に、ハナの肩を叩いて、明はそっと、「あの約束だけは、忘れるなよ」と耳打ちするのを、忘れなかった。
*
食事がはじまると、ハナはぎこちなくカトラリーを手にした。
マナーはわかるし、口にした前菜から、料理に対する期待値も上がった。
だが、テラを前にすると、何を話せばいいのかわからなくなってしまう。ハナは食事の話題としては相応しくないと思われることを、悩んだ末に口に出した。
「先日は、ありがとうございました。あの、もしご迷惑でなければ、クリーニング代を」
「ハナ」
「は、はい」
テラは目の前の皿に視線を落としたまま、優雅にカトラリーを使っている。
その指先を見たハナは、そっとジャケットの内ポケットの中に常備してある、新しく配合された発情抑制剤を思い出した。今度は、何か不測の事態が起きても、テラに恥をかかせず、ちゃんと対処できるはずだ。
「成人したそうだな。おめでとう」
「あ、りがとう、ございます」
「急なことで、祝いの品も何も用意できなかった。すまない」
「いえ……! ぼくの方こそ、兄が、何か、すみません……。まさかこんなことになるとは思ってなくて、その……」
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