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第17話 誕生日プレゼント(5)
「ハナ……? どうかしたか?」
ハナの様子がおかしいことに気づいたテラに、手を止めて顔を覗き込まれると、余計に挙動不審になりそうだった。椅子に座っているはずの足元が、ぐらぐらと不均衡に揺れる。視界が狭まって、頬が火照る。ハナは、それらの感覚を身体から追い出すために、再び首を振ると、テラの方をまっすぐに見つめた。
「あのっ、少し、質問してもいいですか?」
「かまわない。何でも聞いてくれ」
「つがい契約を前提とするなんて、正直、ぼくにはまだピンときません。でも、その、あなたと……色々あったから、その」
「あれを色々と言われると、先へ進みづらいな」
「そ、れは……っ」
「冗談だ。すまない。きみが可愛いものでつい」
「こま、困り、ます……」
「困ったところが可愛い。こんなことを言ったら、明に怒られそうだが」
「その、ぼく、で、いいんですか? 胸もないし、あなたの嫌いな、生煮え、なのに……。もしも、あなたが、ぼくに責任を感じて、付き合いたいと言っているのであれば、ぼくは別に……」
「わたしが好きでも何でもない、友人の弟を、責任感だけで誘惑すると?」
「そうは言ってません。でも、兄のことがあるから、あなたは……」
「これでも選り好みが激しい方なんだがな。だが、生煮えと言ったことは撤回する。あの時は、暗示をかけないと、自制心が働かない気がしたんだ。元々、胸はない方が好みだ」
「そ、そう……ですか」
急なことで、ハナは頭が追いつかなかった。テラにこんなことを言わせていると思うと、ハナの方が恥ずかしくなってくる。でも、もっと聞いていたかった。
「最初に、オメガごときと軽蔑していたのは事実だ。わたしの周りのオメガは、母を除けば、他人の気を引くのが上手い、世渡りの才能に長けた者たちばかりだった。だから、偏見があったことは確かだ」
「はい……」
「が、それはすぐに消えた。きみが、瑞々しい性格だということは、ひと目でわかった。なるべく早く、きみの方から手を引くと言わせないと、まずいことになる気がして、やり過ぎたのは事実だ。無理をさせてしまったことを、何度か悔いたよ。きみは強情だった。わたしと同じぐらいにね」
「あの、いつから……」
「ん? ああ。切っ掛けは、きみが失恋したと打ち明けてくれた時だ。いつしか、きみのような清純な者に愛されたら、どんなにか幸せだろうと思うようになっていった。それに、明に聞いた話じゃ、引きこもりだったそうじゃないか。わたしと同じだ、と思った」
テラは言いながら、肩を少し竦めてみせた。
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