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第17話 誕生日プレゼント(7)

 手をつなぎたい、と思ったが、言葉で欲しがるのはルール違反だ。どうすればいいのだろう。ハナがもじついていると、テラは「ところで」と、後部座席を遮るアクリル板越しに、フロントガラスに視線をやりながら、尋ねた。 「さっき明が言っていた、「約束」とは何のことだ?」 「ああ……あれは、その」  どう説明したものか、ハナは迷って口ごもった。ぶっちゃければ、明が言ったのは、テラがハナに頼み込まない限り、関係を進展させるな、ということだ。それを、どこまで説明していいのか、そもそもテラに言っていいことなのかが、わからない。 「説明するの、少し待ってもらえますか。どう言ったらいいのか……」  ハナが白旗を上げると、テラは笑って頷いた。 「そうか。だいたい明の言いそうなことは、想像がつくが……」  車は立体交差を抜けて、緩いカーブを描きながら、国道を東に流れた。反対車線は渋滞らしく、ヘッドライトが緩々と林立していた。沈黙する車内で、わずかに身じろぎすると、テラの手がそっとハナの小指に当たった。  そのまま手が重ねられたのを感じて、これは、テラから先にされたことに返すだけだから、大丈夫なはずだ、とハナはテラの指を握った。 「あの、テラ」 「ん……?」 「さっきの話ですけど、……返事は、「YES」です」  これはテラの提案を呑むための言葉だから、促すことにはならないはずだ、と、ハナが最大限の勇気を振り絞って言うと、テラはハナの手を、しっかり握った。 「……ありがとう、ハナ」  車はあっという間に幹線道路を逸れて、ハナの家の前に停まった。  テラは、車を待たせてハナと一緒に門から中へと入ると、玄関のすぐ前まで送り届けてくれた。  玄関のドアを開ける前に、テラを振り返ると、静かで穏やかな視線がハナへと向けられている。 「ハナ、少し上を向いてくれないか」 「?」  珍しくせがむ口調に、ハナは何だろうと思いながら、頭ひとつ分ほど上にあるテラを見上げた。 「キスをしても?」 「え?」  思わず目を見張ったハナが固まると、額にちゅっ、と口付けられる。 「今夜はここまでにしておこう。せっかくの明の好意を、無下にしたくはない」 「テラ……」  冷やりとした唇の感触が、額に刻印のように残り、かすかな熱となる。  不意打ちに赤くなったハナの頬を指で撫で、テラはハナを見下ろした。 「これからも逢えるだろうか? きみに」  月夜に照らされたテラの睫毛が、キラキラと光って、美しい。 「あ、えと、は、はい。もちろん……っ」  頷くと、テラの睫毛が月光を零して瞬いた。 「よかった。今夜はこれで帰るとしよう。おやすみ、ハナ」 「おやすみなさい、テラ」  それは、まるで夢の中にいるかのように、美しい光景だった。

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