全ての作業が終わり、「フィオーレ」たちが帰ったあとで、やっとハナとテラによって、仮設置したフィッティングルームの片付けがはじまる。午後イチからやっても、撤収し終える頃には、すっかり日が落ちて、月が見えた。 　ダンスレッスンのない日を選んで行われていたために、ハナにとっては初めての体験だったが、テラが「ハナにしか頼めない」と言った理由が、やってみてわかった。 　あられもない女性アルファたちの明け透けな半裸姿を見ても、平静でいられる人間を探すのは、確かに骨が折れるだろう。しかも、秘密厳守でなければならない。「フィオーレ」たちにも、ハナなら気にならない、と言われ、男としてはどうかと思ったが、信頼されているのは嬉しかった。確かに、ある意味、男性として意識されていないハナにしか務まらない仕事と言えた。 ＊ 「最初はどうなるかと思いましたけど……さすがに慣れますね」 　テラの運転するフィアットの中に、撤収した機材や衣装などを詰め込み、帰路につく頃には、「フィオーレ」たちのヌードに近い明け透けな状態を見たハナも、疲れのあまり溜め息が出るだけだった。フィアットは決して大きくない上に、荷物が過剰なので、二人で乗ると、ハナが助手席で鞄類の間に埋もれることになるが、テラは給金にその分も入っている、という扱いだった。 「そうだろ」 　ハナの溜め息に、テラも気が抜けたのか、軽く口角を上げた。 「商品価値以外のことは、感じなくなっていくものだ。ま、大事な商品だが」 　いくら仮設の衝立で囲っても、半裸の女性アルファの姿を全く見ずには仕事ができない。見る方も見られる方も、気を使う仕事だった。 「でも、美人で、スタイルが良くて、可愛い子たちですよ？」 　ハナも、最初はあまりに明け透けな態度が変わらない「フィオーレ」たちの、あられもない姿に、どこに目をやったらいいやら怯んでいたが、それでは仕事にならないことが早々に判明し、テラに倣って、なるべく数字や事実に集中して、どうにか乗り切ることができた。 「子どもに興味はない」 　ハナが「フィオーレ」を褒めても、テラは全く動じないどころか、愛想の欠片も見せない。本当に商品価値以上のことは何も考えていないところは、デザイナーとしての真価を見せられたような気がした。 「子どもって言うなら、ぼくだって」 　アルファなら、アルファにある程度は反応するはずじゃないかと思って放った疑問だったが、テラはハナの問いを鼻で笑い飛ばすと、ハンドルを静かに左に切った。赤信号でフィアットが停止する。