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第19話 懊悩(2)(*)
「……本当は、きみのことを、このままさらってしまいたい」
言われて、ハナは心臓がきゅん、と鳴るのを聞いた。
「はい……」
許諾の意味で返事をすると、テラは苦笑して、再び額にキスをした。まるで、その場所の権利は自分にあるのだと主張するかのように、テラは思い出すたびにハナの額にキスをくれる。
「……困った」
「?」
「そんな顔をされたら、できないじゃないか」
「テラ……?」
「きみをたくさん啼かせたいと思うほど、わたしは雁字搦めになってゆく」
ハナの髪を弄んでいた指がほどけ、ハナの唇にそっと触れた。
「キスを、しても……?」
その意味がわからないわけじゃない。甘く蕩けるようにねだるテラの言葉を、どうして拒むことなどできようか。テラが求めた、とわかったので、ハナは静かに頷いた。
テラは、静かに「目を閉じて」と言い、ハナの瞼が閉じられたのを確認するような速度で、閉じられた場所に、ちゅ、とキスをした。
一度で終わるかと思われたそれは、再び繰り返される。
ちゅ、ちゅ、と唇を吸われ、甘噛みされるだけで、毛布に包まれた身体がドキドキと鼓動する。好きな人に触れられて、緊張のあまり心臓が暴れ出す。触れるだけのキスは、テラの体温が少し低いせいか、それともハナの体温が通常よりも上がっているせいか、冷んやりとしていて心地良い。
「ん……」
繰り返される口付けに、ハナがわずかに歯列を解く。舌が入り込んできた。その熱に驚いて、ビクッ、となってしまう。テラが、内部にとんでもない灼熱を秘めているのだと、初めて気づいた日のことを思い出した。
歯の間を器用にこじ開け、内部を灼くような口付けがはじまる。くちゅ、ちゅ、と卑猥な音が立ち、羞恥心が頭をもたげはじめる頃、テラの唇はそっと唾液を吸いながら、味わうように離れていった。
「触れても……?」
「はい……」
どこをと言わなかったが、テラが触れるなら、どこでもよかった。触れられると、脳裏で何かが灼き切れそうになる。離れてゆくと、どこか甘やかな寂しさが残る。単純なことだった。
だが、それをどう伝えたらいいのかが、わからない。
ハナの中に、兄との約束を破るという選択肢は存在しなかった。
触れられたい。
もっと、先まで。
広く、長く、深く、届く底まで。
自分から手を出すことは、できない。テラが踏み越えてくるのを、待っていることしかできない。もどかしかったが、テラとこうして触れ合える時を、大切にしたかった。
「そんなに誘うものじゃない。きみは、自覚がないから、怖い」
ぽつりとテラが言い、苦しげに表情を歪めた。
「言われても困るという顔だな。外でそんな顔をしたら、駄目だよ、ハナ」
「は、い……」
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