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第20話 恋というのは(2)(*)

「帰り、迎えにいきましょうか?」  そう提案してみたものの、どこまで踏み込んでいいか、判断がつかない。テラはハナの提案に、ぱっと顔を輝かせたが、一瞬、考えたあとで首を振った。 「いや……帰りの便は向こうで取るから、帰ったら真っ先に逢いにいくよ」 「わかりました。待ってます」  言ったものの、ハナは心が沈んでいくのを止められなかった。  そもそもテラが、ハナとの、一向に進展のない関係を、清算したいと思ったとしても、不思議ではないのだ。イギリスにいた時は、ハナと同じ男性オメガと知り合いだったと聞き及んでいたし、テラの目のつくところにいたオメガは、皆、世渡り上手だと評されていた。テラの好みではないにしろ、生煮えなハナとの関係と比べたら、後腐れのない関係を楽だと考えないとも限らない。それにオメガが、テラのように完璧で魅力的なアルファを誘惑することだって、ありえなくない。関係が燃え上がるのに、オメガ相手ならば、そう時間はかからないだろう。  一度、思い至ると、どんどん思考が悪い方へ転がっていく。ハナは、これ以上はテラを冒涜することになる、と思い、連想するのを止めた。 「日本とイギリスだと時差が九時間ある。きみの声を夜明けに聞けると思うと、ロマンを感じるな」  話が決まると、テラは珍しく欠伸をした。このところ、さらに忙しさが増したせいだ。せめてハナといる時ぐらいは、ゆっくり休んでほしいが、テラはハナにじゃれつくのが、一番、回復に効くの一点張りで、いつも自分を二の次にしてしまう。  今日も、深夜まで絨毯の上で待っていたハナを抱き上げると、ベッドへと運び、テラは寝物語に他愛のない話をした。話す内容は何でもよかったが、会話が途切れると、濃密な時間が待っていた。 「ハナ、キスをしても……?」 「はい……」  いつも交わされる会話が、ぎこちなくなるのはこんな時だ。ハナは、テラが自制心を動員してくれることが嬉しかったが、一方で、自分の情動を持て余し気味になっていた。 「抱きしめても、いいだろうか?」  ちゅ、といつものように額にキスをされ、囁かれる。頷くと、逞しい両腕に苦しいほど抱擁され、うなじの匂いをかがれるのが、気恥ずかしくも嬉しい。 「ん……っ」  暖かなぬくもりが、ハナの背中を撫で、そのままあやすようにトントン、と叩かれる。今日はいつもと少しだけ、違う気がした。きっと、もう数日後には、別れが待っていることが確定したせいだろう。ロンドンへ帰ったテラが、いつ戻るかわからない不安に、心が波立っている。少しの辛抱だとわかっていたが、それでも離れるのは、寂しいことだった。

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