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第20話 恋というのは(4)(*)
「ぁ、ごめ……」
「忘れたのか? わたしの前で、つくろわなくていいと教えたことを」
「は、ぁっ、けど、んっ」
せっかくテラと両想いになれたのに、悪い子だと思われて、呆れられたら怖い。一方、あさましいハナの一面を晒して、引かれるのも嫌だった。雁字搦めとテラは言ったが、ハナの方がよほど束縛されている。素直に快楽を表現することができないほどに。
「ん、く、っ」
喉の奥でわだかまっている声が、漏れてしまい、ハナがじわりと腰を浮かせると、テラは片方の手を滑らせ、スラックスのベルトに触れた。
「下に触るが……?」
こくこくと頷くことしか、もうハナにはできない。
前を乱され、下着を押し上げているその先端へと、下着の布越しにテラの指が、つうっ、と滑った。
「ぁ、あ、っ……!」
その瞬間、最初の波がやってきて、ふわりと香りが変化する。
「ぁぅっ、テラ……ッ、ぁ!」
大輪の薔薇の香りが、ハナの放つ砂糖菓子のような香りと混濁し、甘さを滲ませる。テラはハナの下着の前を押し下げ、上を向いたそれを空気に晒すと、まるでマナーでもあるかのように、白いハンカチをポケットから取り出して、その上へ掛けた。
「はぁっ、ぁふ、ぁっ、ん、んぅ、っ」
布越しに、先端の割れ目を指先で擦られると、じんじんした。純白のものを汚すのは気が引けて、ハナは両足を踏ん張って我慢するが、みるみるうちに布はじわりと濡れて、染みが広がっていく。
何度目か、その割れ目を縦に往復した指が、ぐぐっと入り口を押さえた時。
「ふ、ぁっ……っ!」
ハナの先端から、白濁した体液が、布越しにじわりと広がった。
「はぁっ、はぁ……っ、は……っ」
我慢の努力も虚しく、吐精してしまうと、テラはハンカチの端の、まだ汚れていない部分を使って、いつものように後始末をしてくれた。
(また、やってしまった……)
いつも抑制できなくて、テラにハンカチを使われるたびに自己嫌悪する。が、テラはハナの後悔など気づかぬ様子で、着衣を元どおり直すと、そっとこめかみに触れるだけのキスをした。
「きみは可愛いな」
「ぁ……」
まだ嫌われてない、ということだけが、わかる。
「テラ……、あ、の」
「そんな風に名前を呼ばれると、壊したくなる」
触れられて、嬉しくないはずがない。
だが、求めることが、できない。
兄との約束があるからだ。
濃密だった香りは、次第に部屋の空気と攪拌され、元に戻りつつあった。が、背中に当たる存在を感じているハナは、自分だけが発散させられるこの儀式を、どうにか変えたい、と悩むようになっていた。
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