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第21話 出立(4)(*)
「ハナ?」
「っ」
「気持ち良かったか……?」
「っぅ、ゃ、ゃだ、って、言……っ」
震えながら顔を隠して泣くハナの腰を、やっと離すと、汗に乱れたハナの前髪を、そっと撫でる。
「顔を見せて」
「ゃ、です……っ」
「お願いだ、ハナ」
「っ……」
困った口調で甘く言われれば、意地を張り通す方が難しかった。
ハナは、テラに持たれた手首を横に退けられ、屈辱でぐしゃぐしゃになった顔を晒すことしかできなかった。
「意地悪、ばっかり……」
今日に限って。笑顔で送り出したいと思っていたのに。こんな日に、喧嘩などしたくない、とハナが唇を噛むと、テラは苦笑の気配とともに、ハナの額にくちづけた。
「これを意地悪だというのなら、わたしはきみに、何もできない」
縛したままの両手に、額にしたのと同じ、触れるだけのキスをする。
「だが、無理強いしたなら、すまなかった。今度からはちゃんと許可を取るから、許してくれ、ハナ」
「……っ」
下手に出られると、ハナは頷くより仕方ない。酷く恥ずかしかっただけで、実害はないどころか、羞恥心が上乗せされた分、解放の余韻もまた、強烈だった。
「これでも理性を総動員して、我慢しているんだ。きみを、壊してしまわないようにね」
言って、そっとスラックスの膨らみを腿に当てられると、ハナははっとして顔を上げた。
「わたしがどれだけきみを想っているか、この身体に刻めたらいいのに、と思うよ。でも、そんな酷いことはしない。きみが少しずつわたしを受け入れてくれるのが、嬉しくて、心が温かくなる。こんなことは、初めてなんだ。ハナ」
「テラ……」
ハナの涙を拭い、テラが背中に腕を回した。しっかりと抱き締められると、布越しにテラの体温が、伝わってくるのがわかる。
「きみが思っているよりも、わたしはきっと、きみのことが好きだ。でも、最初に無体をしてしまったから、性的なことに臆病になるきみに、酷くはできない。きみが応じてくれるまで、いつまでだって、待つつもりでいる。だから、安心してほしい」
「っ──……」
その言葉を聞いた瞬間、ハナの中で何かが振り切れた。
「……くは」
「ん……?」
「ぼく、は、そんなんじゃ、ありません。テラ」
ハナはぎゅっとテラの背中にしがみつくと、抱擁の腕を自ら解いた。
「ぼく、は、あなたが思うような、きれいな人間じゃ、ありません」
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