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第21話 出立(5)(*)
戸惑いを含んだ視線で、テラに見つめられ、ハナは武者震いが出た。明と約束したから、ねだってはいけないとずっと思っていた。でも、その結果が、テラを躊躇わせている。これほど愛情を表現してくれるテラに、どうしてそれを返してはいけないのだろう。ハナは考えた末、突然、身を起こすと、テラをソファに座らせ、その腰を跨いだ。
「ハナ……?」
テラは不思議そうに目で問いかけた。きれいな蒼穹の眸に射られて、腰の奥が疼く。が、決意は変わらなかった。
兄の約束は守る。
だけど、テラに気持ちを伝えないまま、異国へ行かせることは、もうできない。
「毎晩、ぼくがどうして眠っているか、知っていますか?」
ハナは言うと、半分はだけたシャツのボタンを、下まで全部外した。
無意識のうちに喉が鳴った。テラに欲情している自分を、ハナは確認する。
心臓が破れそうに鼓動している。これをしたら、嫌われてしまうかもしれない。あさましい、はしたないと、失望させてしまうかもしれない。
でも、それが何だというのだろう。テラに与えられた親愛の情に応えることなく、受け入れるだけだなんて、そんな愛し方で、果たしてテラを満足させられる日などくるのだろうか。それは違う、とハナは信じた。
これから行うことは、約束違反にはならないはずだ。ハナが一方的にすることなのだから、単なる自己開示なのだから、テラを襲ったり求めたりしない限り、問題ないと解釈した。
「ぼくは、こうして眠っています。いつも、あなたを想いながら」
言うなり、はだけられた白いシャツを肩から落とすと、口内で指を湿らせ、もう片方の手を、自分の胸の尖りに這わせた。
「ん、んっ……ふ、ぁ」
頬がカッと熱くなり、卑猥な声が漏れる。
テラの手管で昂った身体は、いつもよりもずっと容易く、ハナ自身の愛撫の指を受け入れた。テラの前でしてみせるのは、初めてのことだ。自分の一番、やましいところを曝け出すのは恥ずかしかったが、触れられないなら、手段はもう、見せるだけしかないと思った。
「ぁふ、ぁっ、ん……っ、テラ、ッ」
恥ずかしい声が、出てしまうのを止められない。快楽に反応した身体が、くねり、腰がゆらゆらと揺れる。テラがこちらを凝視する気配が伝わってきて、それがさらに欲情を加速させた。左右の手で、自分に快楽を与えてくれたテラの動きを忠実になぞる。悦楽までは再現できないが、自分で自分に触るのを、テラが強い眼差しで見ていると思うと、うしろめたくて興奮した。ひとりじゃない。ここにいるのだ、と名を呼びながら思う。
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