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第21話 出立(7)(*)

「──わたしを挑発して、きみは悪い子だ」 「んっ……っ、テ、ラ……?」  目を開けると、すぐ近くにあるテラの眦が朱に染まっていた。獰猛な光を宿した表情に、足がもつれて腰砕けになる。 「悪い子にはお仕置きが必要だ」  苦々しく語るテラの眼差しは、肉食獣のそれだった。 「きみは、起こしてはいけないものを起こしたんだ。猛獣に食われても、文句は言えない」 「ん……んっ──……っ」  言うなりハナはテラに再びくちづけられた。今までとはまるで違う、噛み付くような荒々しさだった。根こそぎすくい取るように舌が入ってきて吸われる。息が止まる。さらわれて、乱れて、ぐらりと平衡感覚が欠けるようなキス。  それが、やがて柔らかなくちづけになり、目尻に落ちた。  涙を唇で拭われる。 「明がきみに、何を言ったか、だいたい想像はつく。大方、わたしから求め、希わない限り、するなと言われていたのだろう……?」 「え、な、何で……」 「わかるさ。彼の言いそうなことだ。きみが、律儀に約束を果たそうとする気質だということを、甘く見すぎていた。きみが、わたしを受け入れてくれることが、わかっていたから、かえってどう心の誠を伝えたらいいか、わからなくて迷ってしまった。すまない、ハナ」  テラは苦しげに笑うと、ハナの右手を取り、その場に跪いた。  そして、言った。 「きみの純潔が欲しい」 「……!」  びくっ、とハナは震えた。  テラは少し寂しげに微笑し、ハナの手の甲にくちづけ、言った。 「きみの最初の男になりたい。愛している。きみを、抱かせてくれないか、ハナ」 * 「は──……」  テラの蒼穹の眸がハナを捉える。ハナの言葉の全てを聴き漏らすまいと、瞬きすらせず射られた。 「はい……」  頷くと、涙が一粒、零れ落ちた。胸がいっぱいで、唇を引き結んでいないと、嗚咽が出てしまいそうだ。右手にテラがくちづけると、じん、とそこから熱が広がっていく。 「あなたに、捧げます。ぼくを抱いてください、テラ……」 「ああ」  震えながら言葉にすると、テラは頷いて立ち上がった。  同時に手を引かれ、前方へよろめき、テラに抱きとめられる。両腕がハナを包み、かすかに怯えるように震えていた。 「きみが欲しい。ずっと欲しかった。今日は何て日だろう……」  息切れするほどの力で抱擁され、ハナは幸せを噛み締め、テラの背中に手を回した。 「ぼくも、ずっとあなたが欲しかった……」  顔を上げると、キスが降ってきた。額へ、瞼へ、眦へ、頬へ。そして唇へ。

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