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第22話 帰国(3)
「えっ?」
「そういうことで間違いない、明」
「えっ、あのっ……」
そんな話は初めて聞いた、とハナがびっくりしていると、明は、「言ったらお前が嫌がると思ったから黙ってた」と前置きをしてから、ハナの匂いが、かすかに通った場所からすることがある、と告白した。
「といっても、俺には、いたかどうかがわかるだけだけどな。残り香みたいなものが、何だかテラとよく似た香りになってたから、何かあったんだろうとは思った」
「そ、そ、……っ」
そんな大事な話を今まで黙っていた兄に、ハナは怒ったらいいのか、哀しんだらいいのか、わからなくなる。だが、明がハナを大事に想って、黙っていたことは事実だ。その心遣いに対して、ハナは様々な感情を経たあとで、感謝したいと思った。
「安心しろ。そんなにしない。ほぼ香ってないに近いんだ」
「そう、それなら……うん」
何となく釈然としないものの、ハナは胸をなで下ろして溜め息をついた。
(ぼく、全然ダメだな)
色々なところで、色々な人に、気を遣わせていることを、やっと大人になって知った。これからは、大事な人を、ちゃんと支えられるようにならないと、と思ったハナは、はたと大事なことに気づいた。
「あの、兄さん。あの約束、いつまで有効なんですか?」
「約束?」
「ほら、あの。ぼくからいったら、だめだって……」
以前、「自分からいくな」と言われていた。守った末に、テラと結ばれたのだが、あの約束はもうなくなったと思っていいのだろうか、とハナが問うと、明はしれっと人差し指で頬を掻いて言った。
「ああ。死ぬまでだ」
「ええっ」
ハナの声が絶望的になるのを、明はニヤッと笑って受け流す。
「冗談だ。律儀に守ったお前に免じて、もう効力はないことにしといてやるよ。それと、テラ」
「ん?」
「見届け役、しょうがないから、引き受けよう。弟を、幸せにしてやってくれ」
言って、明がテラに頭を下げた。驚いたハナは、じんと胸が疼くのを感じた。プライドの塊みたいな存在なのは、テラも明も同じだが、頭を下げる兄の姿を、ハナは初めて見たのだった。
「約束するよ。ありがとう、明」
「泣いてるぞ。泣かせるな」
明は居心地が悪そうにそう言って、「じゃ、そういうことで」と応接間から出て行った。
「ハナ……?」
テラは蒼穹の視線でハナを射ると、そっとその背中に腕を回した。
「きみが恋しかった」
腰を強く抱き、額にキスを落とされる。
「ぁ……」
それだけで、ハナは膝が笑ってしまい、テラに支えられながら、やっとソファに腰を下ろした。
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