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※スコール4
僕が、部屋のかぎを開け、中に入ると、彼が僕の身体をドアに押し付けた。
「……。」
「………。」
そして、彼の口唇が僕のそれを塞ぐ。
「んんっっ……」
僕が、彼の髪をかき乱す。角度を変えて、何度も何度もお互いの口唇を吸い合う。
絡め合う舌は生き物みたいに蠢き、お互いの欲望を引き出していく。
きっとずるいのは、彼だけじゃない。お互い様だ。
今の状況を理由に。
言い訳を無理やり作って。
バサッ。
彼の鼻が触れ、僕のメガネが足元に落ちた。
気になったのは一瞬だけで、僕は、彼の口唇を貪りつづけていく。
「っんんんんっ……っふぅっ…んん…」
やがて、長い長い口付けが終わると、呼吸を整えるまもなく、彼が僕の身体をきつく抱きしめた。
僕は、その腕の中に自分の全てを任せる。
「……悪いな、眼鏡」
「ああ。別にいいですよ。壊れてたら弁償してもらうから。」
「分かった。」
言って、彼が手を緩ませ、僕の両肩を掴んだ。そして、寂しげな瞳を僕に向けた。
「……。」
「なに?」
「……今日は、逃げないよな?」
「何でそんなこと聞くの?」
「………。」
「………。」
僕は、彼の目を見ながら、彼のシャツのボタンを上から順にゆっくりとはずしていく。彼の目は、僕の目を見つめたままだ。
視線が熱い。
逸らしたら負けだ。そんな雰囲気が僕等の間に漂っている。
僕は、ボタンを全て外し終えると、彼の左の胸の突起に口付けた。
「襲わせてくれないの?」
「え〜っ、襲いたいの?」
僕の肩を掴む手に力が入る。僕は突起を口に含んだまましゃべる。
「ああ。そりゃね。」
「ふうん。やだって言ったら?」
右人差し指の爪先でもう一方の突起をはじきながら聞く。
「そうだ……な……」
彼が、僕の両手首をものすごい力で捕えると、床へと僕の身体を押し倒した。彼の体重が僕の下腹にのしかかる。
「っちょっ!?、まってって!」
「だーめ。待たない。散々じらせれたんだからな」
彼が僕の足と自分の足から靴を乱暴に脱ぎとり、投げた。
ガンガン。
靴がドアに辺り跳ね返る。
「場所場所っ! ここ玄関ですって!! ……っんんっつ」
彼は、僕の唇を自分のそれで塞ぎながら、僕のTシャツを脱がし、ジーンズを下着ごと下ろした。
まさか本気でこんなとこでってないよね?
唇を僕から開放すると、彼がニヤリとした笑みをうかべ、僕の頬を撫でた。
「お前の部屋まで案内してもらおうか?」
「……分かりました」
ポスッ。
ベットに僕の身体が落とされると、彼が僕の腰をまたいだ。僕は、手を伸ばし、彼のシャツを脱がし、彼のズボンのジーパーを下ろす。と、もうすでに彼自身が下着を押し上げているのが分かった。
体中がゾクゾクしてくる。
限られた時間だとしてもしても彼の身体に触れられていられるのは、やはり嬉しい。
「さて、はじめようか?」
そして、彼の口唇が僕の首筋に吸い付いてきた。
僕は、彼の背に腕を伸ばし、それを受け入れる。
「っぁ……」
彼の手が僕の肌を撫でながら、口唇で胸の突起をすいあげる。
僕は、小さく声を上げ、指に力をこめた。
初めて肌を重ねる感じがしない。
彼の指や口唇は僕の弱いトコを的確に攻め上げていく。
「睦月……」
吐息交じりの甘い声。
彼の指が、僕の秘部へとえぐるように侵入してきた。
痛みを伴ったちょっとした違和感。
それは、二本から三本へとふえ、甘い痺れへと変化していく。
僕は無意識に腰を振っていた。
「あっんんっ」
自分の声じゃないみたいだ。
鼻にかかった掠れた声が、とどまることなくもれる。
「睦月……ふっ………かわいいよ…………ふん…」
「あっんんん……ゆ……う………いちさんっ、やだっそれ……」
「じゃあこれは?」
「あっ……はぁあぁんん……」
「いくぞ」
足を彼の肩に担がれ、まるで凶器のように光る雄が僕の後ろへと吸い込まれていく。
指とは、全く違う異物感と圧迫感。
そこにつくと、律動する彼。
僕もそれにあわせ動く。
このまま時間が、止まってしまえば良いのに。
そう思いながら、僕は快感に身を委ねた。
「あっ……だめ! でるぅ」
「はあはあはあ……っ俺も………っっ!!」
やがて訪れた達する時。
達したのは、二人同時だった。
2人で眠るには,少し狭いベッド。
僕の隣では,彼が寝そべっている。
僕は,天を仰ぐ彼の横顔を眺めいていた。
「ん?どうしたんだ。俺の顔ジーと見て。そんなに見とれるくらいカッコいいか?」
「まさか。煙草吸わないんだなあと思ってさ」
ふっと笑って,上体を起こし,彼の顔に自分の顔を近づけた。
「煙草?」
彼が腕を伸ばし,僕の首筋を撫でる。
「そう。あなたいつも煙草吸ってたでしょ? 最近吸ってるトコ見ないけど、やめたの?」
「ああ。やめてはいないよ。ただ場所をわきまえてるだけさ。」
「場所?」
「お前、前に言っただろ? 『煙草くさい顔近づけんな』って。」
「あっ……」
自分で前に言った言葉を思い出す。たしかあの時は,顔を近づけられて恥ずかしくって、照れ隠しに適当にいったんだったけ。まさかそんなこと気にしてたなんてこの人が。
かわいいな。
勘違いしてしまいそうだよ。
自分が彼にとって特別なんじゃないかって。
「どうしたんだ?」
「ううん。なんでもない。いいよ終わった時くらいは,煙草吸っても。……んっ」
言って,僕は,彼の頬に軽くキスをした。
「じゃあ、灰皿もってくるから。」
「いいよ。もってこなくて。」
身体を起こし、彼に背を向けると、強引に腕を引き寄せられた。僕の身体は、再びベッドへと沈められる。頭上には,僕の両肩をベットに押し付けている彼の顔が見える。
「………。」
「まだ必要ない」
彼が低い声で言い,再び僕は彼に身体を預けた。
目が覚めたのは,僕が先だった。
トゥルリララ〜。
僕の携帯の着信音が鳴り、僕は、隣で眠る彼を起さないように絡みついてる腕を振り解き、ベッドから、そっと抜け出した。そして、バックから携帯を取り出すとリビングへといった。
「もしもし」
『おはよう。オレ、林。』
「おはよう。」
『もしかして、寝起き? ま、いーや。むっちゃん、呑み屋にペンケース忘れてったろ? 現場行くついでにポストに入れておいたよ。そのことを伝えておきたくて電話した。』
「それは、わざわざありがとう。じゃ、切るね」
「待てよ!! もう少し話してくれてもいいだろ?」
「やだ。こっちも忙しいんだから。」
「分かった。昨日の待ち合わせ相手といるんだろ?」
からかうような口調で彼が言った。
「はいはい。そうですよ。だから、忙しいの!! じゃあね。」
言って、僕は携帯を切った。
さすがに僕の相手が、あの時の待合わせ相手だとは、察してもその相手が『三上雄一』だとは分からないだろう。
一瞬、どきっとはしたけどね。
僕は、携帯を切ると、そのまま時間を確認した。ちょうど11時になっていた。
「おじさん、起さなきゃ」
僕は、ひとりごちて、携帯をテーブルに置き、自分に部屋に戻った。
「雄一さん、起きて!」
言いながら、部屋のドアを開けると、彼は既に着替えを済ませていた。
「よぉ、睦月、おはよう」
「おはようございます。時間、大丈夫なんですか?のんびりしてて。」
「あんまり大丈夫じゃないかも。昼間にひとに会う約束してるんだ。」
彼が、ゆっくり僕に近づくと、
「久しぶりにお前のおかげでよく寝れたよ。ありがとう。付き合ってくれて。」
僕の身体をぎゅっと抱きしめた。
そんなことされたら、行かせたくなくなっちゃうよ。
僕は、一瞬彼の背に腕を回すと,すぐにその身体から離れた。
「はい。おしまい。一回うちに帰るんでしょ? 遅刻されて僕のせいにされたら、イヤですから。」
「ははは。わかったよ。」
笑いながら言う彼の表情はいつもの彼だった。
彼を送るがてら、玄関に行くと、僕の衣類と靴が散乱していた。
「あーあ。こんなになっちゃって。」
彼が、靴の下敷きになっていた僕の眼鏡を拾い上げた。眼鏡は,ねじが緩み、泥が少しついていた。
「あんたでしょ。人のメガネそうしたのは。」
「ははは。悪い悪い。でも、これくらいなら、自分で直せるだろ?」
泥をはらい、メガネを僕に手渡した。
「どうも。まあね。直せますけど。」
「直しにこようか?」
「いいですよ。もうこなくて」
「そんなこと言うなよ。いいだろ?またきても。」
僕の耳元に唇を近付け言う。
「……都合があえばね。僕は、合わせる気はないですから。」
「わかってるよ。じゃあ、またな。」
「はい。またね。」
バタン。
彼が僕の部屋から出て行った。僕は、ねじの緩るんだ眼鏡をかけ,落ちている昨日の残骸を拾った。
また、本当に彼は来るんだろうか?
来て欲しいと願うのは、罪ではないよね?
願うだけなら。想うだけなら。
じゃあ、彼を受け入れるのが罪なんだろうか?
わからない。
わからない。
わからない。
ただ分かっているのは、僕の彼への気持ちが、昨日よりも深くなってしまっていると言うことだけだ。
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