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第13話
「康太さんは今この方に夢中でいらっしゃるのですね。私もご一緒に見てもよろしいですか?」
俺がそんなに見ないテレビを見ているのを珍しいと思ったんだろう。伊藤がそんなことを聞いて来た。
「俺はなーちゃんに夢中なのか」
「………えっと、はい。私からは少なくともそう受け取れます。」
「そうか。」
「この方はなーちゃんとおっしゃるのですね。素敵な方です。」
「やはりそう思うか。時枝七彩さんという声優をやっている方だ。」
「では早速この方がご出演されている作品をこちらでご準備いたしましょう。」
「それはダメだ!」
突然俺が大きな声で否定したので驚いたのか目を見開いていた。
そんなに声を荒げなくてもと思った筈だ。しかし、よろしくない。とてもよろしくないんだ。
ご準備なんてそちらでやってみろ。お互い目を合わしにくいだろう。
「ほら、だから、俺もこうやって芸能人に夢中になったのははじめてのことだから自分で調べてみたいんだ。」
「失礼しました。ではまたお気軽に何なりとお申し付けくださいね。それにしてもこのなーちゃん?はとても笑顔が素敵な方ですね。」
「そうだろう。」
誰が見てもこの笑顔は素敵だろう。満開に咲いている一輪の花のようにコロコロと笑顔になる。
俺は終始目をかっぴらいてテレビを見ていた。
ああ、綺麗だ。
こんな人がさっきまで聞いていたような喘ぎ声を出すのか。いまだに信じられないな。
声優の仕事はかくも素晴らしいものだとは全く知らなかった。
また依吹にでも聞いてみるか。
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