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第6話

△ はぁ、はぁ はぁ、 寮の入り口まで休まず走ったせいで肩で息をする。 普段運動もしないので、自分のひ弱さに幻滅する。 くそ。くそ。 無意識に奥歯を噛み締めていた。 キリキリ....と小さな音が脳の裏から耳に響く。   「...........ッ...く......。」 寮の入り口の端の方にフラフラっと歩いて、しゃがんだ。 体力なさすぎて自分に引くわ。あいつにこんな腹立ててるのも 同じくらい自分にも腹立ててるのもほんと引く。 俺ってこんなに執着してたんだな。 走りすぎて腹の奥の不快感が強い。 体操座りのように体を縮こまらせた。 にいちゃんの迷惑になりたくないって思っていたけど結局自分の不満を ぶつけただけだし。 遊びの関係って...身体だけ..... 「ああもう、わかんね。」 そんな風に人と関わったことがない。 少なくとも恋愛感情も無いのに身体を他人と合わせようとも 考えもつかない。 きっと、兄たちにとってはそこまで、何か考えることでも無いんだろうか。 俺だけ、熱くなって勝手に憤慨して右往左往してる。 カタ。 「.........。」 「さくら?」 ふと、頭上から春の声がした。 「.............。」 おう。なんてタイミング。 あー、無視していってほし。無理だろうなー。 めちゃめちゃ見られたく無い。というか、 こんな入り口で蹲ってる俺が悪いんだけども。 俺は、顔は上げずに声だけ出した。 いたたまれんな。 「あー、はる。...いま、かえり?...」 ざっと気づかれないように腕のシャツで乱雑に目元を拭った。 立ち上がって、下向きがちに春の方を向く。 「.............。」 「あー..と、オレも今帰ってきたとこ..。」 そう言いながら、俺は首をさすって寮の入り口の方に入ろうとする。 なんの反応もないので、不思議に思って後ろを振り返った。 「..?、はる。入んねぇの..?」 後ろにいた春は、学生鞄を持って静かに立っていた。 軽く無造作な感じで上げられた前髪が、夕陽色に染まっている。 探るような眼じゃない。純粋にただ単純に 「なんか、あった?」 またそう春は聞いてきた。 俺は、春の方を見ながらいつのまにか落ち着いていた鼓動を感じた。 こんな時、春には素直に答えようと思うのが俺はいつも不思議だった。 「......あっ...たけど、もう大丈夫。」 「.........そ。」 春は軽い調子で、こちらにそういって近づいてくると 軽く爽やかに笑って 「んじゃ。いくか。」 そういって、見上げる俺の頭を一瞬ポンと触って先に入っていった。 「...........。」 俺は、ため息を一つついて春を追いかけるように歩き出した。 △ 昼休みの時間に入ったので。飲み物を買いに行こうと俺は席を立つ。 昼ごはんはいつも友達と食べたり適当に学園内にある自然公園?的なとこで食べたりする。 この学園は、自然が多くて大きめの温室などもあって植物などが豊富に管理されている施設が至る所にある。 そこの敷地内であればどこでも生徒は自由にしていい。 「悠木ー、今日はどうすんの?」 時々、一緒に昼食をとる友達が声を掛けてきた。 「今日は、外で食べるー。多田も一緒にどう?」 多田は、椅子に寄りかかりながらダラダラと返してきた。 「いいー、俺は今日教室。授業までにはちゃんと戻ってこいよ?」 「はは。それは、多田に言えることじゃない?」 「うっせ。だから、今日は教室で食べんだよ。」 「そうしろ。じゃ、いくわ。」 おー。そう言って多田はまた前に向き直って横の友達と喋り始めた。 自分で朝作った弁当を持って、教室をでる。 廊下を、歩いてると後ろから先ほどと違った騒がしい声が聞こえてきた。 それが、次第に大きくなるもんだから俺は思わず足を止めて振り返る。 「..............。」 は? なんでいんの? 振り返った先に俺の恋的...、いや昨日会った美しい男が此方に歩いてきていた。 まさか、昨日の仕返しに...? あんな、負け惜しみみたいな捨て台詞言ったやつをからかいにきた?とか。 てか、周りすご。 一学年の棟に二年がしかもあんな見た目のやつがいるから周りの奴らが教室からのぞいたり 乗り出したりして、いやてかなんか列できてっし。 周りの声を聞くに、一学年の間でもあの男は有名らしい。なんか、こまけぇウサギみたいな奴らが興奮して騒いでる。 てか、ここ男子校なんですけど。きゃーきゃーうるさ。 おれは、なんだか怖くてまた男がいるであろう方に背を向けて行こうとした。 のに、数メートル進んだところで、左腕を掴まれた。 一瞬鳥肌が立つ。 「おとうとくん。」 顔を後ろに向けて、眉間にシワを寄せた。 昨日ぶりにみた顔。 「....もし、話があるんなら聞きますんで、まずすぐさまこの手を離して俺についてきてください。」 俺は、捲し立てるように一気に言った。まわりで悲鳴が起こったような気がしたが知らん。 それより、こんな人混みで注目されたくない。それに、なにか昨日のことで文句でも言いにきたんだろう。 受けて立とうじゃないか。 「......わかった。」 男は一瞬面食らったようだったがすぐに頷いて甘い笑顔をこちらに寄越した。 また悲鳴。うるせぇないちいち。ファンクラブでもあんのかよ。ここはコンサート会場か。 俺は、腕が離された瞬間すぐに外へ行こうと足を進める。外のベンチに着くまで俺は一度も 後ろを振り返らなかった。 騒音は次第に遠のき、自然の静かな音が耳に入ってくる。 「...............。」 俺は足を止めて後ろを振り返った。 「あんた、自分の容姿わかってます?目立つんだよ。」 少し乱暴にそう告げると、先ほどと同じ甘い笑顔の男が言った。 「あんたじゃなくてぇ、ほたる。海野蛍だよ。」 「..........」 ため息をついた。 「それで、なんですか?....昨日の事なら、謝りませんけど。」 え?昨日? そう言いながら、小首を傾げる。 蛍の柔らかいサラサラとした髪が綺麗な垂れ目を少しかくす。 なんだよ。ちがうのか?じゃあ、なんできたんだ。 目の前のふわふわした砂糖菓子のように甘い男の顔を見てまたため息をついた。 「.........じゃ、なんで一年棟にきたんですか」 このまま質問しても埒が明かない気がしてきた。 「えぇと、おとうとくんに会いにきた。」 ふわりと笑う。 「....だから、なぜ。」 語尾を強めに言うとまた蛍は、考える仕草をしたので 俺は力が抜けて、目の前にあるベンチに腰を下ろした。 弁当食べよ。もう、しらん。この人何も言う事ないみたいだし。 黙々と弁当を開いてると、そういえば飲み物買うの忘れたと思い出した。 蛍はというと静かに俺の隣に腰を下ろしてきた。 「..................。」 何も喋る気はないらしい。 「...先輩は、何も食べないんですか?」 膝に肘をついてこちらをにこにこ見てくる蛍はきれいな色気のある厚めの唇を開く。 「うん。みてる。」 ........。なんだそれは。見るて何を。俺がメシを食らうところをか? 食べずらいし、いたたまれん。 「.......。」 俺は、すくっと立ち上がると近くの自販機に歩き出した。 「え。どこいくの?」 斜め後ろからすこし戸惑った声が聞こえた。 なんか、調子狂うな。 「飲み物、買ってくるだけですよ。」 そう言い捨ててさっさと行った。 「...どうぞ。」 学園には、飲み物類の自販機と軽い軽食系の自販機とある。 おれは、そこでサンドイッチとお茶を二本買った。 「.....もしかして、サンドイッチ苦手ですか?あと、お茶もあるんですけど。」 適当に二種類のお茶を蛍の目の前に見せた。 「.......君って、俺の事きらいなんじゃないの?」 目の前に差し出されたサンドイッチやらを蛍は困ったように見て、俺の方を見た。 「.....別に、嫌いなわけでは...。だって、俺一人食べてるのも気が引けるし。 これ安いから気にしないでください。」 少しぼうっとして笑顔が消えた蛍がまたゆっくりと腕を動かす。 「はい。昨日も貰っちゃったしね。今日はさすがに。はは。俺、サンドイッチ好きだよ。」 ありがとう。と言ってお金とサンドイッチを俺の手の上で入れ替えるように蛍は渡してきた。 俺も、素直に貰っておく。高いわけでもないし。 「どうも...。」 ベンチに座ってまた食べ始める。 視線を感じたので横を向いた。 「.....食べないんですか。」 蛍はサンドイッチの小包を長いすらりとした脚に乗せたまま俺の方を見ている。 「おとうとくんは、なんて名前なの?」 このひと、さっきから全然俺の質問に答えんな。 自由すぎない?いくら、モテるからってさ。 「....悠木桜。です...。」 「さくらちゃんかぁ。」 「........。」 結局、何しにきたんだろ。

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