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第13話

※【このページでは暴力シーンがあります。ご注意ください。】 △ 「ふあぁ.....。」 「ゆうきー。いつにもまして、眠そうだな。」 やば。ばれてもうた。 授業中、黒板に向かう教師に注意され、俺は 居心地悪く、頭をかいた。 「すんませ。」 軽く謝って、机に視線を落としてから、眼を瞬かせると、 くあ、とまたあくびが出そうになる。 おっと。あぶね。 最近、本当に眠れない。 てか、ここまで思い悩むか? と言うほどには気になっていて、別に、いつでも会えるんだから、 疑問は、本人にまた聞けばいいだろと、授業に集中する為、前を向く。 「..............。」 まぁ、答えてくれるか、わからんけども。 ノートの上にのる、自分の手をじっと見つめて、俺はまた迷路に迷い込むように ぐるぐると頭を痛めながら、体がダルさに包まれてゆくのを感じていた。 △ 「おいー。悠木ー?」 移動教室で、一緒に廊下を歩いていた津田が不機嫌そうに 覗き込んでくるのが見えた。 「ん?、なによ、津田。」 「なによじゃねぇーよ。お前、さすがにぼうっとしすぎじゃない?」 俺と同じくらいの身長の津田が、口をへの字にさせて、尖らしてる。 全然可愛くない。 あ、今お前失礼な事考えたろ、と言い当ててくる津田は、相変わらず 不貞腐れ顔のまま続けた。 「さっきからオレが、喋ってんのに何も言わねぇし。」 おう。津田、しゃべってたんか。全然聞こえてなかった。すまん。 「津田、口パクで喋ってた?」 「はいい〜??」 「うそうそ、ごめん。聞いてなかったわ。」 苦笑いして、平謝りする俺になんか奢りやがれと 津田は横暴を言ってきた。 「やだね。お前この前ゆきちゃんと三人で食った時、  奢ったやつ、全然嬉しそうに食べてなかったしー。」 「は?メンヘラかよ。おもいわ〜。  せっかく買ってきたのに、どうしてもっと喜んでくれないの!って  もっと、を欲しがる女みたいだなお前。」 そうふざける津田の顔は若干、赤みをもっていた。 「......殺したろか。」 さいそく、津田の首を絞めてやろうと 俺は、津田に詰め寄る。 きゃー、とか乙女ぶってふざけてるので、 こいつどうしてやろうかと考えてると、 なにやら頭に、ポンと置かれたので俺はなんだと思って、 ふりかえる。 「...はる。」 後ろには、俺ら二人よりも10cmほど、背の高い男前が。 「おい。さくら。」 低い声で、短めに呼ばれたので、思わず反射で返事した。 隣の津田といえば、急に黙って横でじっとしてる。 「はい。」 「お前、これ玄関に忘れてた。」 ん。と言って春の指の長い手がこちらに寄せられる。 あ。彫刻刀。 厚布に包んで小さなガラスケースに入れていつも持ち歩いている ものだった。 「あ、ありがとはる。どこに置いたかと思ってた..」 いつも持ち歩いているのに、何故かきょうはぼうっとする事が 多くて、そうか、玄関に置きっぱなしだったのか。 俺が、ほっとしてそれを受け取ると、春は俺をじっとみていて、 それで、授業遅れるなよ、とそれだけ言って自分の教室に戻って いった。 「ありがとー。はる。」 もう一度、春にそう言ってから、俺らも急いで次の教室へと向かう。 その途中に、津田が嫌な顔をして俺に話しかけてくる。 「..なんか、俺すげーさっきの男前に睨まれたんだけど。」 なにそれ。春は目つきがもともと鋭い方だからじゃないの。 そう俺が言うと、津田はさらに嫌そうな顔をして俺を置いて先に 教室に入って行った。 なんだよ。そんな春が怖かったのかな。 勝手に不安がっていた俺をよそに普段通りに話しかけてくれた春の顔をおもいだして、 俺も教室に入った。 △ 昼休みに入り、一人でおおきな温室がある方向へと、 購買で買った昼飯を持って歩いていた。 今日は、曇り空で、まぁそれも、嫌いじゃない。と 空を少し仰ぎ見て、また歩き出す。 綺麗に管理され、短く揃えられた青い芝生が目の前の歩く道に 広がっている。 草を踏み締める音を聞きながら、俺はまた蛍の事を考えてしまっていた。 「.........ッ.................」 カサッ、と持っている袋が脚を止めた反動で揺れ動いた。 止まった俺は、左斜めの向こうに、複数人が群れて集っているのが 見えて少し眉が動いた。 ..なんだ。 なんだか、雰囲気的に妙な物を感じたので、止まったまま俺は遠くから そこを傍観する。 うーん。あれは。 場所的には木々や雑草が多い繁っている場所で、人が通ってもまず気づかないであろう 所に数人が何かを囲むように立っている。 俺が、気づいたのは、よくここを隠れ場所のように訪れていたので、道に いつもと違う大きな足跡やら、雑草が踏み潰された跡、がひどく目立っていたから。 だから、踏み潰された雑草の茂みに数メートル身体を入り込ませれば、複数人が群がっている そこがすこし見える。 まぁ、珍しくもしかしたら学園の森に住み着いてる野生の動物が庭に迷い込んで来たのかな なんて、半信半疑で考えていたが、そんなことあるわけがない。 こんなとこで、何を。てか、何かあった時の為に、津田か誰かに連絡入れといた方がいいか? そう考えて少しずつ近づいていた俺の耳に知ってる声が聞こえてきた。 「......ッいた!....ッちょっとッ.....やめてよ!さッ、さわんなッ....」 ゆきちゃんの声。 あー、なるほど。これやばいな。はやく、どうにか。 俺は、すばやく連絡メールをスマホに打って、さっとポケットになおした。 「チッ、おい!暴れさせんな...、押さえとけよ」 「おまえっていつも生意気にさぁ、ほんと腹立ってたんだよ。なぁ?」 複数人が、雪に暴言を吐きながら、布の擦れる音が何重にも聞こえてくる。 おれは、頭痛に顔を顰めながら少しダルさがあった全身から、冷や汗が出るのを 感じていた。 「すいません。先輩方?」 出来るだけ、冷静に目の前にいる数人の男子生徒に声をかけた。 「あ?なんだよ。........おい、あいつ押さえろ。」 ぱっと、雪を組み倒していた中心にいる男とそれを囲む数人が、一斉にこちらを振り向いて、 すぐにそう指示するように言った。 「俺、今通報したんで。ひと、きますよ。」 そう言うと、周りの男たちが顔を少し青ざめさせたが、中心の男は全く どうでもよさそうな顔をしていた。 俺は一歩後ろに下がって、 雪の姿を見た。 昼食を一緒に食べた以来、何故か雪は教室にいない事が多くて あまり接触することもなかった。 雪は、ボロボロに引き裂かれた制服をかろうじて腰に残して、上半身はほとんど露出 している。白い肌が、青痣やら擦り傷でところどこ痛々しく赤く、滲んでいた。 あの可愛いらしいふっくらした小さな顔の頬は真っ赤に腫れていて、あの一度の 食事の時にみた雪の姿と大きく異なる。 真っ赤に腫れ上がった、クリクリの目は涙が大粒で溜まっていたが、おそらく雪は泣く まいと必死に我慢しているようだった。 「ゆき...ちゃん..。」 細い腰からズボンが少しずり下ろされていて、今まさにレイプ...強姦に遭いかけていた と言っていい、 ていうか、もうその時点でレイプだ。ゴミどもが。 「おい。いいから、そいつつかんでこい。」 先ほどからこちらを光のない目で見てきていた、中心の男がそう感情のない 声で言った。 「ッ..,でも..やばいってッ、見つかっちまったら........。」 指示された右側の男が、、顔を青ざめさせて男の方を見る。 そう。そうやって怯えてはやく辞めてくれ。 じゃないと、 俺は、手を必死で握り締めて震えを止めていたが、 それを、目敏く中心の男は気づいてニヤリと暗い笑顔をよこした。 よく見ると、体格が良くて、力勝負なんてきっと到底敵わない。 「お前。震えてんな。はは。」 馬鹿にするように俺を見下してくる。 「おれぁ、別に見つかってもいいんだよ。どうせ、親の力で  何やったって帳消し、もみ消しだ。」 それでよぉ、そういって雪をそばにいた奴に抑えてろと言って、立ち上がった。 歪な暗い気味が悪いオーラが男をうようよと、取り巻いているようだった。 「まぁなんだ、いまめちゃくちゃに腹たってんだよ。で、お前がチクリやがって  邪魔が入ったから予定変更だな。」 痛めつけるのは、誰でもいいこの際。そう言って男が近づいてくる。 身体に力が入らなかった。もし、ここで逃げたらゆきちゃんが手を出される だけだ。もう、あんなにボロボロで、今にも泣き叫びたいぐらい怖く、傷ついているだろうに雪の強気の性格がそれを見せまいと彼の精神を更に追い込んでいるように思えた。 多分、まだ来るのには時間がかかる。 勢いよく腕を掴まれた俺は、助けが一刻も早く来ることを願いながら、出来るだけ時間を稼ぐ方法をなけなしに頭痛のする頭で考えていた。 「....................ッ。」 勢いよく、雪の居たすぐ隣に殴り倒されるように跪かせられる。 「.....ッいッ....テ....」 俺は、叩き倒された痛みで、顔を上げなかったが雪の強張った声が聞こえた。 最悪。力はまず敵わない。 「おい。」 勢いよく、頭を掴まれて強制的に顔を上げられる。 「.....ッい..」 「はは。痛いかよ? んじゃあ、予定変更。責任とって、お前には水責めの刑だよ?」 間近でそう楽しそうに言った男の言葉に、俺は背筋が凍った。 ガガガっ、となにか大きめのバケツかの容器の底が地面を乱暴に削る 音が空間に響いた。 「...なに....を.......」 「ホントは、雪をよぉ、犯して犯してぼろっボロにしてやろうと思ってたが、  オメェのせいで楽しみの時間が減ったからな、短時間、お前で楽しんでやるよ。」 「や、...ッやめッ」 暴れようとする俺を目の前の男は、簡単に押さえつけて、楽しめよ?と俺に にこりと不気味な笑顔で言ってきた。 隣から、雪の声が微かに聞こえたと同時に俺は勢いよく、後頭部を がっしりと髪と共に鷲掴まれ、両腕を片手で男に、後ろに固定されたまま、冷たい水の入った 大きめの容器に顔を突っ込まれた。 瞬間、悪寒と恐怖で全身に鳥肌が立つ。 息をするまもなく口に、鼻に、耳に冷水を感じた。 恐怖で思わず、水中で息を吸うような動きになって、大量の冷水が身体に 押してくるように暴力的にはってくる。 強い力で頭も、腕も全く動かせない、必死に脚を動かそうとしたら、 踏みつけられるように体重が両足に乗ってきて固定された。 「ッッ”....ッ”....」 痛みと苦しさが混同して全身が震えだす。 「はははははッ!おい!苦しいかよッ、まだだぞ、まだッ」 そう男が興奮した声を出しながら、俺の頭を掴んで、勢いよく水から顔を上げさせた。 「ッゲホッ!....ゲホッ”.....ハッ”......ッあ”ッ”ぅ”ぁ”...」 一気に空気を肺が吸おうとして俺は酷く嘔吐く、 また、必死に息を吸おうとすれば、冷水に頭を突っ込まれる。 男の笑い声と共に、それが繰り返し行われた。 次第に、意識が遠のいているのを感じた、その瞬間、また掴んで引き上げられる。 空気が足りずに意識すれすれの所を何度も何度も。 怖い、怖い、怖い、こわい 精神がおびえた。生きようとする自分の身体の反動による痛みが 更に混乱を招いて、俺を追い込んでくる。 俺の身体が、いよいよ痙攣し始めてきたころ、勢いよく男の手が頭から、 離れ、俺は急に拘束が解けたことで、容器から身体が逸れるように 地面に肩から倒れた。 びしょびしょに濡れた上半身が、地面を無様に濡らしてゆく。 顔がぐったり倒れた自分の体重ので土に擦れるのを、どうしようもなかった。 近くで誰とも分からぬ怒鳴り声と、慌てた様に身体に触れて来る何かを感じたが、 耳鳴りの様なキュィィィィという音が頭部全体に膜を張るように響いて 正確な周りの声を遮断していた。 視界は酸欠状態で何重にもボヤけていて、横揺れしている。 一気にまた、身体が空気を吸おうと動いて、肉が削られるような痛みが 胸の奥にはしったが、息ができることで次第に頭が少しずつ稼働し始めた。 「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ..ふぅ”ッはっ..ハァッ..ハァッッ..」 「悠木桜!」 近くで、雪の悲痛な叫び声が聞こえる。 俺は、身体が完全に脱力しきってぐったりと床に、倒れて息をするので 精一杯だった。 ガチガチと歯がかち合う音と振動を感じる。 身体が、自由にならない勝手におかしくなる感覚に恐怖した。 た、助かったのか?、おれ。 すげぇ痛い。苦しい。ていうか、なんで、 投げ出されるように地面に倒れた俺は、 回らない頭で何があったのかと考えようとした。 「.......................。」 眼を弱々しく、開けようと重いまぶたを必死であげる。 ぼやけた視界には、数人の風紀委員か教師か見分けはつかないが、 先ほどまでいなかった人間がいるように思えた。 向こうで何やら、大声で叫ぶ声やら怒号がとびかっている。 複数の足音が重なって近くを動く音を感じ、 近くで、ゆきちゃんの安否を確認する切羽詰まった声が聞こえた。 雪は、それに数回答え、駆け寄った人は、担架、だとか、タオル、 だとか、何か指示をしているようだった。 「悠木桜...。」 目線を上に上げると、俺を庇うように、覆いかぶさるように、 こうだれいる雪が俺を見下ろしていた。 綺麗な瞳から宝石が落ちてくるように、俺の頬に生暖かい何かが 落ちてくるのをかんじる。 「ッ”......ゆ”ッき”ち”ゃ”.......ん。」 喉が掠れて、声が出にくかった。 雪は、それを聞いてまた悲しそうにあざのめだつ小さな唇を動かした。 「しゃべらないで。苦しいでしょ。」 続けて、 「もう大丈夫だ。助けがきたから、お前が呼んでくれたから、」 僕も、無事だ。そう言って、雪はまた少し蹲るように背中を丸めた。 「.........................。」 無事じゃ無いだろ、そんなに、殴られて、 ゆきちゃんこそ身体中いてぇだろうな。 雪の可愛くて血色の良かった顔は真っ青だ。 ああ、くそ。こう言う時ちゃんと伝えたいのに、 喉が焼けるように熱かった。 そう、思ってゆきちゃんに少しでも安心して欲しくて、俺は震える腕を動かす。 「............っ」 がんばって、腕に手に力を入れて、ゆきちゃんの汗と泥で乱れた、 やわらかい天然の髪に手で触れた。 「だ”..い”..じょぉ..ぶ..」 そう言った瞬間、ゆきちゃんの背後から大きなタオルケットが掛けられ、包まれるように その傷ついた身体を優しく覆った。 ぼやけた視界からは雪ちゃんが眼を見開いて、よく読めない表情をしていた。 「広野雪。立てるか?」 そう落ち着いた声が、耳に聞こえてくる。 教師だろうか、俺は再度また眼を閉じていてわからなかった。 身体が、驚くほど熱い。頭痛もひどく、全身はピリピリと痺れている。 はい、静かに言う雪の高い声と同時に、 微かに自分の身体に今まであった暖かな温もりが離れた。 と思ったら、俺の全身を柔らかいもので包まれる。 「さくら。もう大丈夫だよ..。」 そう、意識が遠のく中で、聞こえた気がした。 この場所を手短にメールで伝えることは、とても難しかしく、 俺は、兄にメールをした。 周りに見える景色、地面の様子。 それを伝えれば、にいちゃんは絶対にわかる。 そう思った。

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