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「間接キス」

 大体、今も、あの時のままの気持ちでいるのか、分からない。  そもそも一体いつから、そんな意味でオレを好きだったのかも分からないまま。  快斗は、初めて会った時からあんな感じだった。    皆に好かれてるのに、何故だかずっとオレの近くに居てくれて。  オレには、特別、優しくて。それは気付いてはいた。  愁と一緒に居たい、とか良く言ってた。    でも、あの日、Loveで好きだなんて言われる迄は、それは全部友情だと思ってた。  家が目の前っていうのが一番の要因で、毎日毎日、一番最初に会って、最後まで会ってるからこその、特別感、なのだと思ってた。  色々考えながら、シャワーを浴び終えて、パジャマ代わりのTシャツと半ズボン。  タオルで髪を拭きながら、リビングに戻った。 「愁、クーラーちゃんとついた。それだけ心配だったから良かった」 「あ、よかった」 「ほら、水」 「ありがと」 「……おばさんがくれたやつだけど」  笑う快斗からペットボトルを受け取った。 「オレも浴びてくる。ゆっくりしてな」 「うん」  快斗が居なくなったので、ソファに座って、何となくぼー、と部屋を見回す。  テレビとか、音が出る物が無いから、何か凄く、静か。  快斗が出てきたら、物凄く、静かになっちゃうんじゃないかな。 「――――……」    立ち上がって、スマホを手に取ると、音楽のアプリを立ち上げて、ランダムで連続再生にした。  快斗との、沈黙が、気まずいかも、なんて。  初めて思ってしまった。  うるさくならない位の適度な音量で音楽を聞いていると、快斗が出てきた。  風呂上がりの快斗、見るの、すごい久しぶり。  少し見ないうちに、ちょっと男っぽくなった気がする。  ――――……やっぱり、超カッコイイな、快斗。  水も滴るいい男、とか言うけど…… 快斗の為にある言葉な気さえしてしまう。  思わず見惚れていると。 「……相変わらず、オレの顔、好き?」  クスクス笑いながら、快斗が言う。 「……うん。なんか、前よりもっとカッコ良くなった?」 「4か月しか経ってないからそんな変わんねえと思うけど」  ぷ、笑いながら、快斗が言って、水を飲んでる。 「快斗、向こうでも、モテてる?」  咄嗟に思いついて、そのまま口にした言葉に、快斗はちら、とオレを見た。 「……モテるよ。結構な頻度で告られるけど」 「そう、だよね」 「オレの顔って、女子ウケはいいからな……」  まあ、そりゃそうだろうけど。  一般人にしとくの、もったいないもん。 「それに転校生って、余計モテるかも」 「快斗だから、特別モテるんだと思うけど」  付け加えて言うと、快斗は「そう?」と言いながら、少し笑った。 「あ、愁、おばさんが持たせてくれた中に、プリン入ってたけど、食べる?」 「うん、食べる」  快斗が冷蔵庫から出してくれたプリンとスプーンを受け取って、ソファに腰かける。すぐ、水だけ持ってる快斗が、隣に座った。 「快斗は食べない?」 「今はいいや」 「そっか。じゃ、いただきまーす」  快斗がすぐ隣に座ってるのが何となく気まずくて、ソファから滑り降りて、ローテーブルにプリンを置いた。  すこし距離があくし、目線の位置もずれるので、ちょうど良い。 「……甘いの好きなの、相変わらず?」 「4か月じゃ変わんないよ。あ、このプリン、うまい」 「ふーん……やっぱり一口」 「――――……」  あーん、と開いた口にプリンを入れる事。  ……ていうか、オレ達、そんなのずっとやってきた。  子供ん時から一緒だから、ちょっとちょうだい、とか、残り食べて、とか。  お互いに全く気にしなかったから、ずっと全然平気でやってた、のに。  一瞬、どき、として。 「……はい」  そっとプリンをすくって、スプーンを差し出す。  ぱくっと食べた快斗が「すっげえ甘い……」と、笑う。  快斗の食べたスプーンを、プリンに差し込んで。  ――――……間接キスとか。今更、何考えてんだか、オレ。 「こういうの好きで、何で太らないんだろ、愁」 「食べるより動いてるからじゃないかな」 「あれ、バスケ部は引退した?」 「うん、こないだ。最後の大会、負けちゃったから」 「じゃこれ以上食べてたら太るのかな?」 「…あ、そっか」  ちーん。打ちひしがれていると。 「まあ愁は少しくらい太っても可愛いと思うけど」  クスクス笑ってる快斗を、いやーな顔で見つめてしまう。 「気を付ける……けど、これは食べる」  もぐもぐ。  美味しい。  ――――……間接キスが、気になるけど。    

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