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「気まずい」

 プリンを黙々と食べながら、テーブルの上で鳴ってるラブソングを、誰の曲かな、なんて、画面を覗いて見たりしていると。 「愁さ」 「うん?」 「そうやってスマホで音楽よく聞く?」 「んー……たまに、かな」  答えると、ふうん、と、快斗が黙った。  ふ、と、快斗を振り返って、見上げる。 「……音楽、うるさい?消す?」 「うるさくはないから、いいよ」 「……ん」  消しちゃうと、シーンとしそうなんだよな……。  2人で夜を過ごすのなんて初めてじゃないのに、  すごく意識して――――……緊張してる、自分。  夕方会ってからも2人だったけど、花火で、周りに人がたくさん居たからまだ普通にいられた。完全に2人きりになって、落ち着いて座ってしまうと、やっぱり緊張する。  聞きたいけど、なかなか聞けそうにない事が頭を巡り回っていて。  他の会話が思い浮かばないし。  よく喋る快斗が、今日に限って、あんまり喋ってくれないし。  実は、快斗も、気まずい…のかなあ…。 「なあ、愁?」 「ん?」  スマホに触れたまま振り返ると。  何かに触れてしまったらしく、音楽が消えた。  しーん…。  ……この部屋の状態を、自ら言葉に出して、表してしまいそうだった。  しかも。  静寂に慌ててもう一度再生しようとスマホを持ち上げた瞬間。  手からスマホが滑り落ちてしまって。  咄嗟に手を出した快斗と、スマホを挟んで、触れあってしまった。 「……っ」  思わず、思い切り手を引いてしまった。  自分の行動のあまりの不自然さに、硬直する。  快斗はというと。  スマホを手に持ったまま、無言でしばらくオレを見つめて。  それから、ふ、と苦笑い。 「音、つけなくてもいい?」 「え、あ、うん、いい」  答えてしまってから、はっと気付く。  いや、やっぱりつける。ちょっとこの静けさは、耐えられそうにない。 「……やっぱり、つけていい?」 「良いじゃん。別に聞きたくてつけてる訳じゃないだろ?」 「……」  静かなのが嫌だとも言えず。 そのまま続く言葉も言えずにいると。  快斗が、スマホをそっと、テーブルに置いた。 「――――……なあ、愁?」 「……うん」 「オレと居るの、気まずいか?」 「――――……」  いきなり核心を突かれて、言葉を失う。  すると、快斗は、今度は苦笑い。 「2人で居るの、嫌?」 「――――……」  ……そうじゃ、ない。嫌なんかじゃない。  いや、そりゃちょっと気まずいし、沈黙がちょっと苦しい気がするけれど、でも、それは快斗の事が嫌だからとか、そんなんじゃ、ない。  ぶるぶるぶる。  言葉にならず、ただ首を横に振る。すると。 「なら、あんまり意識しないでくれない?」 「……え?」 「そんなに意識されて緊張されると――――……こっちまで、意識する」 「……ごめん」  ああ。そうだよな……。  オレがこんなだと、快斗だって、居辛いよな。  そう思って、謝ると。 「謝るとこでもないんだけどさ」  クスクス笑う快斗。  何だかあまりに優しく笑ってくれるから。息詰まっていたものが少しだけ解ける。  あ。  ……今なら…。  聞ける、かな。

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