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「散歩好き?」
投げつけた枕を、快斗が優しく投げ返してくれる。
「オレ、そんなに緊張してた?」
「うん。してた。オレが笑ったら、ホッとした顔してた」
クスクス笑ってる快斗。
……そう言われてみれば、してたかも……。
「快斗は……何でも分かっちゃうんだもんな……」
「ん?」
「考えてる事さ、昔から、何でも分かっちゃうんだよなー……」
「ああ……そう思ってたのか?」
「うん。昔から、快斗は人の気持ちが分かってすげーなーって思ってた」
「人の気持ち……」
快斗はちょっと苦笑い。
「つーか――――……オレが何でも分かるのは、愁の事だけだよ」
「……ん?」
「そんだけお前のことばっか見て、考えてたって事。他の奴の事はそこまでは分かんねーよ?」
「あ ……そう、なんだ……」
……また恥ずかしいこと、平気で言う。
いや、でも、快斗は他の人の事も鋭い、と思うけど…。
「それにさ、分かんない事もあるよ。特に、今の愁が何考えてるかは、今日話して分かった事も、いっぱいある」
「――――……そっか……」
……そりゃそうだよな。
……オレだって、自分の気持ち、話しながら、色々考えてる感じだもんな。
ここ数カ月は快斗、側に居なかった訳だし。
「また明日色々話そうな?」
「……うん」
オレが頷くと、快斗も、ふ、と微笑む。
「……今日はそろそろ、寝よっか。早く寝て、明日早く起きて散歩しよ」
「―――…うん」
快斗が電気を暗くしたので、布団にあおむけに転がる。
……散歩。 昔からよく、快斗に連れだされたっけ。
よく一緒に歩いたなあ……。
「……散歩好きだよね、快斗」
「――――……ん?」
「―――……散歩いこって、しょっちゅう誘われて、河原とか駅の方とかよく行ったなーって。オレ、裏道、超詳しくなったもん」
「ああ……」
少しの沈黙の後。快斗が、ぷ、と笑った。
「……何で笑うの??」
「んー。愁って、ほんと、何も分かってないなーと思って」
「……?? 何が?」
ちょっとむっとして。むく、と起き上がって、快斗の方を見る。
暗いけど、カーテンの隙間からの光で、表情位は見える。
快斗はうつぶせに寝ころんだまま、顎に手をついて、斜めに見上げてくる。
「オレ、別に散歩好きじゃないよ?」
「……散歩、好きじゃないの? え、じゃあなんであんなに……」
「散歩が好きなんじゃなくて、愁と話しながら歩くのが好きなんだよ」
「――――……っっ……」
――――……もう。無理。絶対、勝てないし。 絶対、無理だし。
なんかもう、今日あちこちでドキドキしすぎて、もう、無理。
オレは何も答えず、ずるずるとうつぶせに布団に沈んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
――――……んん……。
………ん?
あれ?
「――――……愁……」
快斗の裸、カッコイイ。
筋肉がキレイについてて、男っぽい。
……え。なんで、快斗、裸?
裸の快斗に、抱き締められて。
ゆっくりキス、されて。
ほわほわ浮かんでるみたいな気持ちになって。
ああ、オレ、快斗、大好きだなーなんて、思って。
ぎゅ、と抱き付いて。 優しいキスを、受けてると。
舌がまた、入ってきて。
――――……それも気持ちよくて、
何も、抵抗もできずに、抱き付いて――――…。
「かいと……」
大好き。そう言おうとした瞬間。
「あ、起きた? 愁」
「………………え」
その声に、はっと現実に引き戻された。
快斗のかわりに抱き締めていたのは、枕だった。
あ、そうか……ゆうべ、あのまま寝ちゃったのか……。
ゆ……夢か。
ごろん、と転がって、枕をさらに抱きしめる。
恥ずかしすぎて、快斗の顔を見られない。
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