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「優しかった」

 ぼーっと考えながら、もくもくと食べていると。 「……愁?」 「……ん??」 「すげえぼーっとしてるけど」  クスクス笑う快斗。 「……んなことないよ」  言いながら、もぐもぐ食べ続けていると。 「快斗くんが帰ってきてくれて浮かれてるんでしょ」  可笑しそうに、母さんが笑う。  またそういう、余計な事を……。  オレが、快斗の事、大好きみたいじゃんか。  …… って、大好きだけどさ…。    こちらに背を向けて、流しを片付け始めた母さんの背中を見ているとまた考える。  オレが、快斗とさ。  ……恋人同士になったら……ほんと、母さん、どうするかな。  もしそうなったら、母さんに伝える日が、くるのかなあ……。  パンを頬張りながら考えていると、隣の快斗の視線に気づいて、ふ、と視線を流す。何を思ってるんだか分からないけど、優しく笑ってる快斗に、思わず、にっこり笑い返してしまう。  ――――…快斗は、ずーと、優しかった。  うちの方が先にここに住んでいた。家の前に建っていた大きな家が取り壊されて、しばらくして新しく建った家に、快斗の一家が入ってきた。小学校にあがる直前の春休みに出会って、入学式から一緒に登校する事になった。  引っ越してきた日、挨拶にきた快斗と、初めて遊んだ。  すぐ近くの小さい公園で、2人で。すごく、楽しかった記憶が、ある。  ――――…それから、ほんとに、いつもいつも、一緒だった。  母同士が意気投合した事もあって、余計に。  遠出して一緒に出掛けることもよくあった。    小さい頃のオレは、自分でも覚えてるけど、ほんとにすぐ泣いた。  泣こうとしてた訳じゃないんだけど、我慢できなくて、すぐ泣いた。  転べば泣き、宿題が出来ないと泣き、誰かと喧嘩しては泣き。  ――――…快斗がいつも、慰めて、くれた。  全部覚えてる訳じゃないとは思うんだけど、覚えてるだけだって、数えきれない。……あんなに泣き虫だったオレ、相当うざかっただろうに。  ほかの友達には、「また泣いたー」「泣き虫愁ー」とからかわれてたけど、そっちのほうが意味が分かる。それくらい、よく泣いてた。  なのに。快斗はほんとにいつも、優しくて。  ――――……ほんとに、大好きだった。  目の前にあるブラックのコーヒーのマグカップを見て。   「愁、コーヒー、牛乳入れる?」  快斗が言ってくれるので、うん、と頷く。  テーブルに出ていた牛乳をマグカップに注いで、スプーンでかきまぜてから、オレの目の前に置いてくれる。 「ありがと」  快斗を見て言うと、快斗は、また、優しくにっこり笑う。  いつでもこんな風に、快斗が笑っていてくれたから、大げさじゃなくて、オレの人生って、すごく、楽しかった気がする。

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