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「ズルい」

 快斗って。  ……ズルいな。  プールに着いて、入り口にあった売店で、快斗の水着を選んだ。  今日しか着ないし、もう何でもいいからオレが選んで、と快斗が言うから、超適当に、これでいいんじゃない?と、差し出した水着。  千円ちょっと、こんな値段で売ってるんだね、なんて笑った、安い水着。  なのに。  快斗が着てると、すっごい高そうに見える。なんでだ。  ……ほんとズルい。  シャワーを浴びて、頭を振って、水滴飛ばしてる快斗を、何となくじっと見てしまう。  脱いでも……カッコいいなあ。  ここまで来ちゃうと、ちょっと嫌味だな。  周りに居る女の子達が、ちょっとちょっと、と、快斗を見ながら噂してる。  まあ、分かるけど。  ……背ぇ高いし、足長いし、体良いし。 で、顔見たら、快斗の顔がくっついてる訳で。……そりゃあ、女子は、チェック入れるよね。  ……分かるよ。うん。 「愁?……何、面白い顔してんの?」  一人で変に納得してる所を、ちらっと見られ、くす、と笑われる。 「行こ?」  ぐい、と手首を引かれる。  めちゃくちゃカッコいい幼馴染は。  女子の視線をものともせず、オレを引いて、歩き出した。  前を歩く、綺麗な背中に、とくん、と、胸が弾む。  一番に来たのに。もう既に混んでる。  きっとこれからもっと、どんどん人が増えてくるんだろうなーと、ちょっとうんざり。人込み、好きじゃない。  でも、オレの手を引いてる快斗が、とても嬉しそうなので、それもまあいいか、と、思ってしまう。  そこら中で、すぐ、周りの視線を集めちゃう快斗。  なんで、オレのこと、好きだって言うのかなあ。  よりどりみどりで、作ろうと思えばすぐ恋人だって、できるだろうに。 「愁、流れるプールに行く?」  振り返って、まっすぐ、オレのこと見つめて、すごく楽しそうに、笑う。   「あ、うん。行く!」  つられて、楽しくなって、めちゃくちゃ笑顔になってしまう。  ――――……一緒に、顔を見て、触れて、こんな風に過ごせるの。  ただただ、普通に、すごく、嬉しい。  一緒に流れるプールに浮かんで、流れるまま。  あー、ほんとに。  たのしい……。 「楽しいな?」  オレと同じタイミングで、不意に快斗がそう言った。  あれ……オレ、口に出したっけ、今?  と、不思議に思う位のタイミングで言われて、快斗を見上げたら。 「どしたの?びっくりした顔して」 「……オレいま、楽しいって口に出した?」 「え? 出したか出してないか、覚えてないの?」  クスクス笑われて、「そうじゃないんだけど」と返す。 「オレも今、楽しいなーて思ってたら、快斗が、ちょうど返事したから……」 「オレ、返事したんじゃないよ、だって愁、今何も口に出してないし」  そう言って。快斗はオレの頭に触れて、撫でながら、オレをのぞき込んだ。 「おんなじタイミングで、楽しいなって思ったってことだろ?」  快斗がものすごく、優しく笑ってオレを見つめる。 「――――……」  ……これに、ドキドキしない奴なんて、居ないと思う。  ……オレだからじゃなくて。  女の子だけじゃなくて、男だって、絶対ドキドキするよねって思ってしまう。

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