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「離れるって」
一回プールから上がって、かき氷を食べる事にした。
ロッカーに荷物を取りに行く。
「愁、何食べる?」
「イチゴ」
「おっけ、買ってくるから、あそこの日陰で座ってて?」
「一緒に行くよ」
「いいよ。 休んでな?」
「……うん」
優しく言われるので、それ以上は言わず、頷く。
快斗に指された日陰で、とりあえず座った。
あれ。快斗、見えなくなっちゃった。
ますます人が多くなってきた気がする。
――――……快斗と居るの、ほんと、楽しい。
気を使わなくてよくて、楽だし。楽しいし。でも、ドキドキするし。
……今日は風が気持ちいい。
太陽は熱すぎだけど、濡れたまま風にあたってると、ちょっと涼しくて、心地よい。
気持ちいいなー。楽しいなー……。
……でも、あと、少しで、快斗、帰っちゃうんだ。
――――……いなくなっちゃうんだ、そばに。
楽しい分だけ、寂しくなってくる。
いきなりの引っ越しの時は、そりゃもちろん、悲しかったけど。
快斗が居なくなるっていうことが、実感として、分かってなかった。
毎日毎日、テレビ電話つなげて、ずっと、途切れてはなかったけど、でも、学校に居ないし、毎日快斗の家を目に映すたびに、ここには居ないんだって実感するし、遊ぶとかもできないし、寄りかかることも、頭撫でてくれることもなくて。
思っていた以上にダメージが酷くて。
結果、オレは、自分をガードするために、諦めた、んだった。
快斗はもういないんだって。必死に諦めて、平静を保ってた。
今回、快斗が帰ってきてくれて。
――――……楽しくて。
一回居なくなって、なんとか諦められてたのに、また楽しさを知ってから、居なくなるって。
どんなに寂しいか、今度はもう分かってるから。
……余計に、切ない。
――――……告白の返事も……。
もう、好きなのは、絶対なのに。
――――……好きって答えた瞬間に……遠距離、かあ……。
しかも大学だって、もしかしたら快斗は、向こうかも、しれないって言ってたし。そんなに離れてたら。しかも大学なんて、絶対、世界が広がるだろうしさ。 オレと、ずっと、電話なんて――――……してられないだろうし。
もうなんか、色んなこと、考えてると――――……全然まとまらない。
「愁、ただいま」
「あ、お帰り、快斗」
「どうかした?はい。イチゴね」
「ありがと。 どうかしたって?」
「変な顔してるから」
「……もともとだけど」
「んな意味じゃないって知ってるだろ」
クスクス優しく笑いながら、オレの隣に、快斗は座った。
肌が触れる位近くに。
ドキドキする心、隠しながら。
「快斗は何にしたの?」
「ブルーハワイ」
「あ、舌青くなるね。あとで、写真撮ろ?」
言うと、快斗は、クスクス笑う。
「毎年、変な色の舌で写真撮ってるもんな。今年も撮れてよかった」
「うん。オレ、歴代の写真ちゃんと取ってあるよ。面白いからメモリーカードに移してるから」
「後で送って、歴代の」
「うん、いーよ。食べたらね」
ぱく、とかき氷を口に入れて。
冷たすぎる。うー、と耐えてると。快斗はクスクス笑った。
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