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第7話
「俺はこの学院の入試を受けていない」
「あんなのはただ、人間かそうじゃないかを見分けるためだけのものだから大丈夫ですよ」
「……は?」
俺、彼とちゃんとした会話出来てるだろうか。
さっきから英次の時もそうだったし、人間じゃなかったら俺達はなんなんだ?
ますます分からず戸惑うと少年は地面に寝る英次の胸ぐらを掴んだ。
まだ目を覚ましてなくてぐったりとされるがままだ。
また英次になにかするつもりなのかと腕を掴み止める。
少年がこちらを見て、その瞳は本気だと思わせるなにかがあった。
「まっ、待て!」
「言う事聞くって言いましたよね?俺の願いは貴方がクロス学院に来る事です」
「…君、学生だろ?学生がそんな独断で判断しちゃ…」
「これは学院を支配するある方に頼まれたものだから良いんです」
「……学院を支配って、理事長先生…とか?」
「笑止!あんなのただの小物ですよ、小物の分際で偽物を本物とか言いやがって」
なんか少年から怒りのオーラが見えるんだけど、気のせいか?
偽物とか本物とか何の話だ?内容も理解出来ない。
理事長じゃないとしたら他の支配者?誰の事かますます分からない。
俺はやっと少しずつ自分の時間を取り戻せたと思ったのに…学兄さんがいる学院なんかに行ったら…
不安そうに下を向くと少年はしゃがみ覗き込んできた。
見た目はいいのに笑う少年が不気味で怖く感じた。
「…大丈夫、貴方が気に入らない奴は俺が全て消してあげますから……でももし貴方が断るなら、この男の命は保証しません」
頬に触れた手は生きているとは思えないほどとても冷たかった。
まるで人の温もりがないようでゾクッとした。
…そんな事、あり得ないのに…疑ってしまう。
俺が断れば英次を助ける約束を破る事になる……それならば俺の答えは決まっている。
英次を助けるためにはそれしか方法はない。
少年をまっすぐ見たら少年は俺の決意を感じでニヤッと笑った。
「じゃあ早速行きましょう!善は急げですよ!」
「…っ、まて…」
俺の手を掴み引っ張られて無理やり立ち上がる。
まだ何も言ってないけど本当に分かっているのか苦笑いする。
そして歩き出す少年は二歩くらいで足を止めた。
下を見て睨んでいるからどうしたのかと俺も目線を下に向けて驚いた。
そこには英次が必死に少年の足にしがみついて引き止めていた。
その顔は苦しさで歪んでいたが、強い瞳で少年を睨んでいた。
「英次っ!!」
「…あーあ、ちょっとお喋りしすぎましたね」
少年は冷めた声で舌打ちして、足を振り掴んでいた英次の手を振り払う。
英次はまだ完全に治っていないからか苦しそうだがまた少年にしがみつく。
英次のところに向かおうとすると腕を強く引かれ行く事が出来ない。
何度か足を振るうが英次も堪えて少年のズボンを掴む。
傷だらけになっても英次の目は諦めていなかった。
弱々しい声で「…みず、きを…返せっ」と言うと少年は見下したような笑みを浮かべていた。
「へぇ~、騎士気取りか…姫の騎士は俺だけで十分なんだよ」
英次の腕を踏もうとしたから俺は少年の手を振り払い英次を庇うように覆い被さった。
寸前で足を止め少年は吐き捨てるように舌打ちした。
英次は少年から手を離して、少年も足を下ろした。
これ以上英次が傷付くのは見ていられない。
……俺なんかのために、そこまでしなくていい。
俺は少年を見れなくて、覚悟を決めて静かに言った。
「…英次は関係ないだろ」
「………」
「…瑞樹?」
俺は英次を見て安心させるように笑いかけた。
英次は今起きたばかりなのか状況が分からなかった。
何故少年に連れてかれそうになったのか、英次は関係ないと言ったのか…
……英次を助けるためだが学院に行くと決めたのは俺だ、だから英次は関係ないと言った…本当は少しだけ関係あるが英次に罪悪感を抱かせないためだ。
でも英次は友人だ、黙って引っ越す事も出来ず学院に行く事だけ言った方がいいよな。
英次は驚くかもしれない、怒るかもしれない…でも…もう決めた事なんだ…自分勝手でごめん。
「英次、ごめんな…俺のために同じ高校に入ってくれたのに」
「……瑞樹どうしたんだよ…俺は」
「…他人事みたいだけど、お前もクロス学院に行くんだよ…人間もどきが」
少年が英次を睨みながらそう冷たく言った。
え?英次もって事?確かに英次にクロス学院からの入学案内が届いていたから不思議ではない。
でも英次も行くなら言ってくれれば良かったのにと英次の方を見る。
英次はさっきの苦痛に歪む顔ではなく怒りを露わにした。
…どうしたんだいきなり、英次?言い方が気に入らなかったとか?
それに、さっさ変な事言ってたな……人間もどきって…
「違うっ!俺は人間だ…俺は…」
「この人の前で堂々と言えるか?嫌われたくないからと逃げてただけだろ」
「……っ」
英次は俺をチラッと見ていて言葉が詰まった。
何も言わず唇を噛む英次を不安そうに見つめる。
嫌われるってなんだ?よほどの事じゃないと嫌うなんてないぞ?
でも英次は俺に嫌われると思って震えているのか。
少年は大人しくなった英次の胸ぐらを掴んだ。
またなにか英次にするのか身を乗り出すが少年が手を広げてそれを止めた。
「ムカつくが、お前を学院に連れてくるのも俺の仕事だからな…お前もクロス学院に来るんだよ…人じゃなくしてやる」
「いっ、嫌だ…嫌だぁぁっ!!!!」
少年は用事があると明日迎えを行かせると言い、何処かに歩いていった。
今気付いたが、少年は俺よりも少し小柄のようだ。
あの白猫はいつの間にかいなくなっていた。
まだ泣いている英次の傍に居たいが、正直俺もいろいろありすぎて疲れたから「英次、俺も行くから平気だ」と言うと泣きすぎて真っ赤になった目で俺を見つめて「…瑞樹も人間じゃない?」と言った。
よく分からないが、とりあえず全ては明日だと英次を家の前まで送り別れた。
……英次はクロス学院の何を知ってるのだろうか。
両親にはどう説明しようか迷っていたが、家に帰った途端その心配はなくなった。
お母さんは何かに怯えながらリビングの隅にいた。
俺が近付くとビクッと体が震えて俺を見ていた。
…その顔は顔面蒼白で恐怖している顔だった。
「お母さ…」
「近付くな化け物!!」
台所にあった皿が飛んできて避けたら、後ろでパリンという音が響いた。
お母さんはぶつぶつと何かを言っていて聞き取れず、話が出来る状態じゃないとリビングを出た。
今日の夕飯は少ない小遣いを貯めてたから外食をした。
今のお母さんには近付いてはいけないと本能が言っているのだろう。
家に帰り必要最低限のものを荷造りした。
俺は明日からクロス学院に行くのか…そういえば今の学校はどうなるんだ?
まぁ、明日になったら全て分かるか。
……明日に、なったら…
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