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第9話
※瑞樹視点
翌朝、家のチャイムが鳴り響いた。
迎えが来たのだとすぐに分かった。
一言お母さんに言いたかった家中何処にもお母さんはいなかった。
不安だったが、俺は家のドアを開けた。
するとそこには黒いフードを深く被った怪しい男が三人いた。
…本当に大丈夫か?これ…
「お乗りください、姫様」
この人達も言うのかと呆れながら家の前に止めてある後部座席のドアを開けて待ってくれてるから乗り込むと、先に英次も乗っていた。
英次は俺を見るなり明るく笑い手招きしていた。
昨日の事が嘘のような英次の態度に元に戻って良かったとホッとする。
車が走り出し、俺は英次を見た。
もう痛みはなさそうだけど、心の方は大丈夫だろうか。
無理をしていないか心配する。
「…英次、もう平気か?」
「男がずっとうじうじしてたらかっこ悪いだろ?瑞樹も来るなら断る理由はない!」
英次はなにか吹っ切れたような顔をしていた。
…俺も、英次を見習わなきゃな。
学兄さんにずっと怯えたままだとかっこ悪いよな。
昔のトラウマを克服しなきゃな。
クロス学院がどんなところか分からない、けど新しい生活を楽しみにしなきゃな。
窓を見つめると、次々と景色が変わる。
「英次のところはいきなりクロス学院に行くって言ってなんか言わなかった?」
お母さんがああなったのは俺の家だけなのかと気になった。
……なんでお母さんはあんなに怯えていたんだ?学兄さんと飛鳥くんも同じ学院に行ったのに…
尋常じゃない、なにかに脅されているような怯え方だった。
何に?……分からない。
英次を見ると昨日の事を考えている。
すると英次は、思い出したのか不思議そうに首の後ろを掻いた。
「なんか帰ったら母ちゃんがもう帰っててさ、クロス学院の事知ってんの!そんでなんかスムーズに話が進んでさ…俺ちょっと拍子抜けした」
俺のとは違っていた、いや…もしかしたら同じだったのかもしれない。
お母さんもクロス学院の事を知ってたのか?…でもあんな状態になるのは可笑しい…普通の教え方ではなかったのか?
英次は俺の家はどうだったか聞いてきたから「俺のところも同じ」と言った。
…英次を不安にさせないためにも、お母さんの事は言わない方がいいだろう。
昨日はバタバタしていて入学案内の用紙と共に入ってたパンフレットとか見ていない。
そもそもクロス学院って何処にあるんだ?
それに俺達はそのままクロス学院に向かっているが元の学校はいいのだろうか。
…お母さんがあの様子じゃ、不安しかない。
「英次、俺達が通ってた学校はどうなったんだろうな」
「あー、瑞樹を待ってる間にフードの人達に聞いたんだけど、転校って事になってるみたいだよ」
誰が手続きしたのか、クロス学院の人?そこまで普通するだろうか。
謎多き学院だな。
そんなところに通って飛鳥くんや学兄さんは大丈夫なのか?
英次も少しは知ってるみたいだったよな。
……何も知らないのは俺だけだ。
英次は真剣になにかを見ていたから横から覗き込んだ。
「何見てるんだ?」
「クロス学院のパンフレット、表向きのだから簡単な説明しかないや」
簡単な説明ってなんだ?表向きって…まるで学院が何かを隠してるみたいな言い方だな。
英次と共にパンフレットを見る。
クロス学院は全寮制の男子校だが、20年前までは共学だったらしい。
そして校舎の写真は綺麗で大きかった。
クロス学院には二つのクラスで別れていて、ブラッドクラスとマギカクラスと書かれていた。
どう違うのかよく分からないが、クラスの他にもランクもありSS、A、B、Fと別れていた。
成績順だろうか…あれ、俺入試受けてないんだけど…ちゃんと受けた方がいいよな。
フードの人に言っても分からないとは思うが気になった。
「あ、あの…俺….入試受けてないんですが、受けられるんですか?」
「貴方様は姫なので必要ありませんが、受けたいなら手配しておきます」
質問には答えてくれたが、納得はしていない。
入試を受けない学校なんてあるのか?俺は知らない。
それにあの少年も俺を姫と呼んでいた。
パンフレットを見ても何処にも姫の文字はない。
………俺はいったい、なんなんだ?
しばらく走っていて長時間車に揺られちょっと気分が悪くなった時に車が止まった。
「着きました」
フードの人がそう言い車から降りて後部座席のドアを開ける。
俺達は順番に降りて、驚いた。
山の奥にある学院だとはパンフレットで知っていたが……パンフレットに載ってた外観と違くないか?
パンフレットでは青い空をバックに高級感溢れる外観に明るい学院生活を連想させる建物がでかでかと載っていた。
だから俺と英次はちょっと楽しみにしていたんだ。
しかし、実際のクロス学院は…
さっきまでは天気がいい雲一つない青空の昼頃なのに、クロス学院の周りだけが暗い雰囲気がある。
せっかくの天気なのに大きな木が何本もあり、空を覆い隠している…それが暗い雰囲気の原因だろう。
カラスも鳴いてるし、一言で言うと、不気味過ぎる。
入り口の巨大な門がさらに怖さを倍増させている。
うっすらと見える奥にあるお化け屋敷みたいな城が校舎……なのか?
「とりあえず此処に居てもしょうがないし、入るか」
「みっ、瑞樹は危ないから先に俺が入るっ!!」
英次はお化け屋敷とか苦手なのに無理して震えながら開けようとしているから俺が代わりに開けた。
英次に任せていたら時間が掛かりそうだった。
昔はホラー系が苦手だったが、だんだん歳を取ると幽霊とか信じないし、怖くないからな。
こういうのは得意な奴が先頭だといいだろう。
良かれと思ってやったのだが、英次には逆効果みたいだった。
英次は俺が前を歩くと俺に守られてるみたいでプライドが傷付いたのか唇を尖らせて拗ねていた。
「…俺が瑞樹を守るのに」
「俺だって男なんだから守られたくない」
英次はまだ不満そうだが、やっぱり怖いのか俺の後ろをぴったりとくっついて歩く。
フードの人達は学院には入らないのか門の外でお別れした。
多分職員室に行けばいいんだろうかと、校舎に向かうため歩く。
なんか、終始誰かに見られてる嫌な視線を感じるな。
周りを見るがそれらしい人は何処にもいなかった。
フードの人達ではない、校舎の中から感じた。
「……英次、視線が」
「お、驚かすなよ!!」
「いや…ごめん」
英次は今怖がってるから何を言ってもダメそうだと思い、気にせず歩く。
門から校舎までどのくらいの距離があるのか、ここからじゃ見えない。
歩くと校舎の前には大きな噴水が見えた。
明るい時に見たら綺麗だと思えたんだが暗いと不気味だ。
庭に咲く花も黒や紫といった暗い色をしていた。
そして門から随分歩きやっと校舎前に着いた時だった。
「あーーー英次じゃん!!!!!!」
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