10 / 110

第10話

出来ればもう聞きたくなかった大きな声に顔をしかめる。 さっきまで怖がってた後ろの英次を見ると嫌な顔をしていた。 英次も当然学兄さんを知っている、そしてずっと英次に俺の悪口を言っていたから英次は学兄さんが嫌いになったと本人から聞いた。 横から声がしたから声がした方に視線を向けると両手を大きく振り走ってくる学兄さんと疲れたようにその後を着いてくる飛鳥くんが見えた。 数ヶ月しか経ってないのに懐かしく感じた。 英次は俺を盾にするのを止めて二人の前に出てきた。 「…学兄さん」 「げっ!!なんでお前ら此処にいるんだよ」 「英次を迎えに来たんだよ!知り合いだから俺達に理事長室まで案内させるって、全く人使い荒いよな!」 「……」 学兄さんと飛鳥くんが俺達の前で足を止めた。 学兄さんは相変わらずらしいが飛鳥くんはなんか疲れた感じだった……メールでのやりとりで分かっていたが、思ったより酷くて心配になった。 「……飛鳥くん大丈夫?なんか元気ないみたいだけど」 「あぁ平気だ…ずっと兄貴が付いて回るから休む時間なんてないけど……そんな事よりなんで瑞樹がクロス学院に?」 飛鳥くんは乾いた笑い声を上げて、なんで俺がいるのか不思議そうに見ていた。 …なんだ?俺の事は聞いてないのか? 急に決まったような気がしたがやはりそうなのか。 まさかあの少年が勝手に言ってただけ…とか言わないよな? じゃああの黒いフードの人達はいったいなんだったんだ? 状況が分からず戸惑っていたら、学兄さんが今気付いたのか俺を見て驚いていた。 「なんで瑞樹が…!お前は来ちゃいけないんだぞ!!」 何故か分からないがちょっと焦り気味で怒っていた……別に来たくて来たんじゃないんだけど、なんなんだよ…本当に… よく分からず八つ当たりをされた、いつもの事だからもう慣れたけど… 学兄さんに少年の話をしてもややこしくなるだけだから苦笑いしてやり過ごす。 とりあえず案内してくれるらしい二人に着いていき校舎の中に入った。 学兄さんは英次とばかり話していて、英次は俺に助けを求めるように見ている。 …ごめん、俺には学兄さんを止められない。 「……学兄さん相変わらずだね」 「まぁそうだな…この学院に入ってからさらに調子に乗ってるみたいだけど」 「……え」 俺は前を英次と歩く学兄さんを見た。 そういえばすれ違う生徒のほとんどが学兄さんを見て顔を赤らめたり噂話をしている。 学兄さんは何処でも人気者なんだな。 昔から外面は良かったからな。 それにしても生徒の制服は二種類あるのだろうか。 すれ違う生徒を見てみると黒の学ランの生徒がいたり、白のブレザーの生徒がいたりする。 飛鳥くんは黒の学ランを着ていて学兄さんは白のブレザーだ。 どういう基準で分けてるのだろうか。 そういえばパンフレットには二種類のクラスもあるって書いてあったな。 飛鳥くんなら分かるだろうか。 隣の飛鳥くんを見ると飛鳥くんはずっとこっちを見てたのか、目が合い驚いた顔をしていた。 ……どうかしたのだろうか。 「飛鳥くん、その制服…」 「えっ!あ、あぁ…これは」 「着いたぞ!!」 飛鳥くんが慌てたように何か言う前に学兄さんの声に遮られた。 校舎と校舎を繋ぐT字の渡り廊下の真ん中にもう一つ特別な塔のような建物があり、俺達はそこにやって来た。 目の前には大きく威圧感がある扉があった。 此処が理事長室だろうか、今まで通ってきた学校とはなにかが違う気がした。 塔は三階建てのようで、塔の扉を飛鳥くんが開けると理事長室と書かれた扉が目の前にあった(渡り廊下が二階にあるから塔のような建物は二階しか入り口がないみたいで中はエレベーターのようになっている) エレベーターは通らず、まっすぐ向かい一つ深呼吸をして扉をノックする。 理事長室は何処でも緊張するなぁ… 数秒が数分に感じていたら中から声がした。 「入りなさい」 「失礼します」 中に入ると椅子に座った初老の男の人がいた。 机には理事長と書いていたから理事長なのだろう。 かなりの威圧感に俺と英次は固まってしまった。 しかし学兄さんは全く緊張していない……というか、自分家のように入口に立ってた俺達を通り過ぎ一足先にソファーに座った。 それを見て理事長は柔らかい顔をしていた……まさか学兄さんは理事長までも? 驚く俺達に気付き顔を引き締めた理事長は理事長席から立ち上がりソファーに座り直し学兄さんにだけお茶とお菓子を出して、手招きされたので俺達も座る。 飛鳥くん、俺、英次の並びで座り向かい側のソファーには学兄さんと理事長がいた。 理事長はチラッと俺を見た後、学兄さんの頭を撫でていた。 「…君の話は聞いている、森高瑞樹…君の名だろう」 「……はい」

ともだちにシェアしよう!