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第11話

俺は理事長とは今日この瞬間で初対面の筈だ。 ……なのになんだ?この恨んでいるような視線は… 理事長は学兄さんを十分に堪能した後、こちらをもう一度見た。 いくら思い出してもやはり過去に会った事はない。 人に恨まれるような事をした覚えはない。 だって友人以外と関わりあいになりたくなくて人と話す事もあまりなかった。 じゃあ、あの少年?それしか思いつかなかった。 「君は随分学に酷い事をしたようだね…君が来てから明るかった学がこんなに怯えてる」 そう言われ学兄さんを見ると、俯いて肩を震わせている。 さっきまで元気だったのにと驚いた…凄い変わり身だ、いっそ尊敬する。 学兄さんはチラチラとこちらを伺っているから演技なのだろうと冷静に思う。 学兄さんは俺がいないところでも悪口を言っていたのか。 …そしてそれを理事長は信じた。 何のための悪口か分からない、ただのストレス発散だろうか。 「ふざけんな!瑞樹に酷い事をしてきたのは学だろっ!!」 「……英次、よせ」 英次が今にも理事長に飛びかかりそうだったから腕を引き止める。 こんな事で暴力沙汰なんて起こしたら大変な事になる。 理事長も眉間にシワを寄せて不愉快そうな顔をしている。 これ以上この人を不機嫌にしてはいけない、本能でそう思った。 英次は態度悪そうにソファーに座り足を組む。 普段の英次はちゃんと目上の人の礼儀が分かるのにそれを忘れるほどに怒っているという事か。 「……君は人の世で育ったから学の価値が分からないんだろう」 「はぁ?知るか!そんなもん!!」 「……英次」 英次は頭に血が上りやすいタイプで一度怒ったら周りが見えなくなる。 ソファーからまた立ち上がり今にも俺達の間にあるテーブルを通り越そうとする英次の服の袖を掴み引っ張る。 英次は俺を見て渋々と座るがまた怒りそうな気がして英次の手を掴み立たないようにする。 ……英次、なんか顔が赤いが…もしかして男に手を繋がれるのは嫌なのか?でも、離したら英次が心配だし… それに何故か俺の隣に座る飛鳥くんも怖い顔をして英次を睨んでいた…そりゃあ男同士の手繋ぎなんて見せられたらそうなるか。 俺は何とも思ってないからその気持ちは理解出来ないが気持ち悪いと思ってるなら申し訳ない。 「英次、話が終わるまでだから我慢してくれ」 「えっ!?…お、おう」 なんか英次の顔がさらに真っ赤になった…本当にごめん、英次。 なんか二人の間に変な空気が流れた。 学兄さんはまだ震える演技をしているから俺達に気付いていない。 なにか言われるかもしれないから良かった。 理事長は呆れた顔をして咳払いをした。 「もういいかな」と遠慮がちに聞いてくるから「は、はい!」と頷いた。 ずっと待ってた理事長はさらに不機嫌な顔をして俺を見た後に、とびきり甘い顔で学兄さんを見た。 ……理事長の変わり身も凄い。 「学は我が学園には必要な存在、姫なのだよ」 「……姫ってなんですか?」 ずっと言われてきて気になっていた。 学兄さんも姫と呼ばれてるのか?どういう意味なんだろう。 そのままの意味、ではないだろう…学兄さんも俺も男だし… 学兄さんはともかく俺は王子の器でもないけど…ますます分からない。 理事長は俺を見て小馬鹿にしたような笑い方をした。 ……俺、この理事長…苦手だ。 「姫を自称するのに知識がないのか?とんだ偽姫だな」 俺は一度も姫を自称した事はない。 英次の手をギュッと掴み英次がまた掴みかかるのを止めていて隣の飛鳥くんを見た。 飛鳥くんは理事長をずっと睨みながら拳を握っていた。 強く握りすぎて指の隙間から赤いものが見えた。 俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど…自分を傷付けないでほしい。 飛鳥くんの手を自分の手で包み、俺は大丈夫だからと手のひらから流れる血を指で拭いた。 「姫とは我らの国の王と結婚を約束された選ばれし人間なんだ!」 学兄さんは震える演技を止めて嬉しそうにそう言う。 国の王って…日本の話じゃないよな? …学兄さんってそんなに偉くなったのか? いや、俺達三兄弟は一般家庭出身の平民だ…先祖でさえ偉人はいないけど… しかし学兄さんは誇らしげな顔をしてソファーに立ち俺を見下した。 …学兄さんが行儀悪いのは誰も注意しなかったからなんだよな…俺がもう少し勇気があれば良かったんだけど… 「そうだぞ!俺は架院の婚約者だからそんな態度取っちゃダメなんだぞ!」 …架院って誰だ? 王様の婚約者って事は男の人…だよな。 どうして学兄さんがそんな事になっているんだ? 男子校だから女の子がいないから?それだけで王様の婚約者になるのか?街に出たらいっぱいいるのに? 海外では男同士で結婚出来るって聞いた事あるが、王様なら世継ぎは良いのだろうか。 次男とか…なのだろうか。 「あの…学兄さんは子供産めませんけど世継ぎとかは良いんですか?」 「はっ、これだから人間は…我らを低脳な人間と一緒にしないでもらいたい」 「……え、だって人間じゃ」 手から伝わる飛鳥くんと英次の緊張。 ……俺は、なにか可笑しな事を言っただろうか。 そういえばあの少年も人間とか呼んでいたな。 まるで自分達は人じゃない、そう言いたげに聞こえた。 理事長はニヤリと笑った。 この場で知らないのは俺だけのような空気が漂っていた。

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