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第13話

※?視点 いつも日が当たらない学院の敷地内だが、夜になるとさらに周りが闇に覆われる。 もうこの時間滅多に誰も外を彷徨かないだろう。 彷徨いたら最後、血肉に飢えた魔物に殺される……此処はそんな学院。 俺は少し早いが暇だから寝ようとしていたら、学院で支給される便利な携帯電話の機能がある携帯道具が無機質に鳴った。 面倒だけど、出ないともっと面倒かもしれない。 ベッドの枕元に放置していた携帯道具を取り、発信者を見てため息を吐いた。 通話ボタンをタッチして耳に当てる。 5分くらい電話の相手と話して、電話を切った。 会って話がしたいと言われたから寝る気だった体を無理矢理起こして、ちゃんとした服に着替えるのが面倒くさくてTシャツにジーパンというラフな格好で部屋を出た。 外には出ないが寮内にはこれから飯を食う奴や風呂とかいろいろな生徒で溢れていた。 俺を見た生徒は憧れや驚き、恐怖する奴もいた。 ……どいつもこいつも面倒くさい。 俺は基本無関心だ。 誰が死んだとか、誰が殺したとか…たとえそれが友人であってもきっと俺は「ふーん」と一言で終わるだろう。 ……あの人を除いて… あの人は俺の太陽であり心臓であり、俺の全てだ。 どうやら俺は、あの人の事になると面倒な事がそうじゃなくなり、喜怒哀楽の感情が芽生えるのもあの人関連だけ。 ふと、足を止めて自分の手のひらを眺める。 いつも遠くから眺めるだけだった…でも、そんなのじゃ…足りない…触れたい触れたい。 あの人の白くすべすべの肌に牙を突き立て残さず血を体内に取り込みたい。 自然と熱いため息が溢れる。 それを見た周りは顔が赤くなったり興奮してる奴が居たがどうでもいい。 「…あ、あの」 俺の部屋が二階にあるから一階に降りるエレベーターを待っていたら、自分と同じくらいの背丈の男が恐る恐る声を掛けてきた。 コイツは確かマギカクラスの…一度血を吸ったような…そうでないような… 血を吸った相手なんて腐るほどいたし、どうでもいいただの飯の事なんでいちいち覚えてられるか。 男は大きな目を潤ませて頬を赤くしてこちらを見ていた。 一度血を吸っただけで自分に好意があると勘違いする奴が多過ぎて困る。 ……気持ちわりぃ 「あ、あの…また僕の血を…」 「鬱陶しいから面見せんなよ、今度声を掛けたらその喉…斬るぞ」 殺気立つ瞳で男を見ると男は恐怖で後退るように走ってどっかに行った。 もう俺にはあの人がいる…お前らはいらないんだよ。 到着の音と共に開くエレベーターに乗り、緩む頬を抑えられずにいた。 一階に着き、声を掛けてきた奴を総無視して寮を離れて誰もいない並木道を抜けて学院に向かう。 俺は普通の生徒と違うから襲われて死ぬヘマはしない。 襲われたら殺すが、ただのトレーニングにもならないほど弱いからあんまり面倒な事はしたくない。 俺がこの学院に入学した当初は襲ってくる奴はいたが、今は名前が知られてるから誰も襲ってこない…つまらない奴らが多い。 いっそ次期王を殺すか…退屈はしなさそうだ…あの人の一番近くにいる…殺す理由としては十分だろう。 どうやって殺すか考えていると、学院に着いた。 確かアイツは電話でマギカクラスとブラッドクラスの校舎の間にある裏庭にいるって言ってたっけ? 面倒だが、校舎をぐるっと回ると裏庭付近に夜の闇に溶け込んでる黒い人影が見えた。 相変わらず何考えてるか分からない奴。 その人影は空にぽっかりと穴が空いたような月を眺めている。 そういえば此処は唯一学院の敷地内の中で日が当たる場所だっけ? デカい学院が邪魔して他の場所は薄暗いが此処だけ奇跡的に明るい。 横顔から何を考えてるか分からないが、俺が男に近付くと今気付いたのか男も俺を見た。 そして俺を見てニコッと笑った。 結構長い付き合いである俺は軽く頭を下げただけで、すぐに男を見た。 「…彼、どうだった?」 「元気だよ、ちょっと悩みがあるように見えたけど」 「……そう」 今日、あの人の様子を見に行ったらなんかお土産屋に立ち止まりなにかを真剣に悩んでいた。 俺宛じゃないから密かに唇を噛んだが、まぁ誰に送ろうが俺はあの人の騎士に変わりはないからいい。 話を聞かずに自分で会いに行けばいいとは思うが、男は行きたくても行けない。 だから俺はほぼ毎日この男にあの人の事を報告している。 何故あの人以外にこんな面倒な事をしているかというと、全てあの人のためだ。 ……あの人の、幸せの為… 男は過去にいろいろあり、人間に触れ合うのを恐れている。 ……あんな事があった後じゃ、無理もないと思うけど… だから俺に御使いを頼んだんだ。 あの人をこのクロス学院に呼ぶ事を… 郵便じゃ、また失敗するから今度は直接あの人に届くように… あの人に早く会えるから全然苦じゃない御使いだが…一つだけ分からない事がある。 何故あれほどあの人を自分から遠ざけたのに近付くような真似をする? …この学院の理事長に無断で入学案内の封筒を送ったり、まぁ一度目はどうやって丸め込んだのか分からないが紛い物がやって来たけど… 二度も送るほど、何故あの人に… 「……貴方のしたい事が分からない、貴方は何を企んでる?」 「企んでる、か…そんなんじゃないよ…これは彼を守るためなんだよ」 「……守る?」 「そう、僕が守らなきゃいけない…彼を誰からも…彼自身の中に潜むあの男からも…」 あの男とは何の事か分からないが、とにかくあの人があのまま人間の世界で暮らしたら危ないという事は分かった。 しかし自分だけが守れるなんて思わないで欲しい……俺だってあの人を守りたい。 一度も会った事がないのに何故惹かれるのか…答えは簡単だ、運命だと感じたからだ。 写真しか見た事がなかったのに、俺はこの人と添い遂げる!と思ったほどだ。 さっきまで男が見ていた月を見る。 俺が守る……誰よりも何よりも… 「誓司(せいじ)くん、一つ…君にお願いがあるんだけど」 「今まで何個もお願いしてきたくせに今更申し訳なく言われても…」 「……ふふっ、そうだね」 男は一言美しく整った唇を動かし声を発した。 俺はそれを聞き目を閉じた。 あの人の唇から発せられたらどんなに良いことか。 名を呼ばれただけで我慢できなくなる。 「誓司」なんて言われた日にはまるで夫婦じゃないかと妄想して頬が緩む。 あぁ…早く会ってあの人の太ももに口付けしたい! 「…君の事だから面倒くさいとか言って放置しないでよ」 「………しないよ、あの人に関わる事なら喜んで引き受ける…ただ、今回は俺でも簡単じゃないかもしれないな……処理の報酬は高いぞ」 「大丈夫、用意してるよ」 二人の吸血鬼は肩を並べて笑いあった。 この学院があの人の住みやすい世界であればいい…… これは俺が姫に直接初めて会う前日の出来事。

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