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第15話
「この学院に人間はいない、吸血鬼と魔法使いが通う学院だとはもう説明したね」
英次と一応俺も頷いた。
本人には聞いてなかったが、飛鳥くんと英次は魔法使いか吸血鬼なんだよな。
ずっと一緒にいたのに気付かなかったな。
それが、思ったよりショックだった。
…俺は、彼らにそこまで信用されてなかったのか。
そんな事を考えてるなんて勿論知らない理事長は話を続けた。
「…この世界には魔族と呼ばれる奴らがいる、大きく分けて二種類の魔族がいる…それが吸血鬼と魔法使いだ…この学院を設立した理由は人間との共存とも世界を乗っ取る馬鹿げた野望でもない……ある人物を探すためだ」
「それが俺だよ!」
理事長の言葉を黙って聞いていたら、突然学兄さんがテーブルを叩き立ち上がった。
そういえば学兄さんは姫とか言われてたっけ?
………結局俺が姫とか言われてたのは勘違いだったんだよな?
可愛い顔の学兄さんなら分かるが、冴えない俺が姫とかありえないし…
その勘違いで英次がああなって俺が今ここにいると思うと微妙な顔になる。
英次は嫌そうな顔をして学兄さんを見た。
「……今いいところなんだから邪魔すんなよ」
「なんでだよ!俺の話なのに!!」
学兄さんはソファーの真ん中にあるテーブルに身を乗り出して拗ねたように頬を膨らませた。
ずっと黙っていたから我慢出来なかったのだと分かる。
それを理事長は優しげな目で学兄さんの頭を撫でた。
……本当に理事長は学兄さんが好きなんだな。
でも姫とはいえ一生徒をこんなに贔屓していいのだろうか。
この学院に普通の学校の常識はつうじなさそうだけど…
呆れ顔の俺達を見て理事長は慌てて咳払いした。
「…コホン、私達は姫…いや…学を探していたんだ……我々に代々受け継ぐ神話の姫を…」
「……それが、学兄さん?」
「そうだぞ!!俺は架院と結婚するんだぞ!!」
架院って確か学兄さんの婚約者で王様だっけ。
正直よく説明されてないからどんな人物か分からない。
飛鳥くんなら先に入学してたし知ってるのかもしれない。
学兄さんは昔から老若男女に好かれていた。
でも男が好きとか聞いた事はなかった。
あ…でも確か一度女の子に告白された時は物凄い罵倒を浴びせていたとたまたま見ていた飛鳥くんから聞いた。
学兄さんは自分より可愛い女なんかいないと下で見て女の子は好きではなかったようだった。
でも周りは学兄さんに告白してそれから登校拒否になった生徒を自業自得だと笑い学兄さんを崇拝していた。
それはまるで学兄さんのよく回る舌で洗脳されたようだった。
きっと学兄さんの周りにいる人達もまた同じ考えを持つものなのだろう。
「飛鳥くん、学兄さんの婚約者ってどんな人?」
無知な俺の質問でも飛鳥くんは嫌な顔一つせず優しく教えてくれた。
そんな学兄さんが結婚してもいいと思わせた人…純粋に気になった。
学兄さんは可愛いタイプは嫌いだからカッコいいタイプなのだろうか。
学兄さんの周りは常に顔がいい人達が集まっていたからいまいちどんなのがタイプか分からない。
英次も少し気になるのか目線は壁を向いているが耳だけこちらに向いていた。
英次も素直になればいいのに…
「千羽 架院 、魔法使い共の次期王だよ…ちなみに兄貴の婚約者…らしい」
「魔法使いだったのか」
「そうだぞ!!俺は姫だから吸血鬼と魔法使いの王と結婚しなきゃならないんだ!!しょ…しょうがなくな!!」
しょうがなくと言ってるわりに満更でもなさそうなんだけど……学兄さんは姫だし王子と結婚するのは当たり前なのか。
しかしちょっと引っかかる事が一つある。
……もしかして、学兄さんの婚約者って二人いるの?
魔族の常識だから分からないが一妻多夫が常識なのか?
……学兄さん、いろいろと大変そうだな。
学兄さんはさっきまで自分で言って照れた顔をしていたが、すぐになにか考えるような顔をした。
「けど、吸血鬼の次期王は見た事ないんだよなー…飛鳥も吸血鬼なら知ってるんじゃないのか!?」
「!?」
学兄さんがいきなり飛鳥くんに質問したから飛鳥くんはびっくりして学兄さんを見た。
……飛鳥くんが、吸血鬼?
驚く俺に気付いた飛鳥くんはすぐに目を逸らした……話したくない事なのだろうか。
話からして人間は俺と学兄さんだけ、英次は理事長が魔法使いと言っていたから魔法使いなのだろう。
でも飛鳥くんは分からなかった、飛鳥くんは俺達と兄弟だから当たり前に人間だと思い込んでいた。
重い沈黙の中…事情を知らないからか、話を分かりやすくするために理事長が代わりに話した。
「森高飛鳥くんは吸血鬼だよ…と言っても強制的に吸血鬼にされたダンピールだけどね、初瀬くんは魔法使いだ」
「……俺は、人間で良かったのに」
英次も苦しげな声を出す。
……二人共、俺に言いたくないような雰囲気を感じた。
とても傷付いた、俺は二人が何者であっても変わらないし…言いふらしたりしないのに…
それとも別の理由でもあるのだろうか。
学兄さんは知っているだろうし、俺だけ知らず置いてきぼりを感じた。
二人は悪くない、相談に値しない頼りない俺が悪い。
「飛鳥くん、俺…」となにか言う前に飛鳥くんが慌てたように俺を見た。
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