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第16話
「違うっ!!別に瑞樹に内緒にしてたわけじゃ……ただ、怖がらせたくなかったから…」
こんなに泣きそうな顔の飛鳥くん…初めて見た。
俺は飛鳥くんの優しさに触れ、俺を思っての事だと嬉しく思い…悲しかった。
飛鳥くんの頬に両手を添えた。
飛鳥くんはびっくりした顔で俺を見た。
俺は一人で勘違いして落ち込んだ。
こういう事は言葉にする事がとても大切なんだ。
「…飛鳥くんが何者でも俺の弟には変わりないんだから、怖がったりしないよ…飛鳥くんが居てくれたから俺は一人じゃなかったんだよ」
「………瑞樹」
飛鳥くんは俺の手に自分の手を重ねて握った。
お互いの手の温もりを直接感じた。
あの少年とは違う、とても暖かな温もりに安心する。
お互い微笑みあった。
この言葉は英次にも言える事だ。
英次の方を振り返ると、英次は面白くなさそうな顔をしてこっちを見ていた。
「……瑞樹、俺は?」
「英次にも感謝してるよ、英次は大切な友人だ」
「…………なんかおまけみたい」
すっかり英次は拗ねてしまい、英次を慰めるために背中をぽんぽんと叩く。
その一部始終を見ていた学兄さんはクッキーを手のひらで握りしめ粉々にして恨めしげに俺を見ていたなど、この場にいる誰もが気付かなかった。
理事長に制服が二種類あるのは見分けるためだと教えてもらった。
学ランは吸血鬼が通う…ブラッドクラス、ブレザーは魔法使いが通う…マギカクラス……英次と学兄さんはブレザーになる。
人間のクラスがないからあまり血生臭くない温厚の生徒が多いマギカクラスに学兄さんと俺が入る事になった。
英次は寮では離れてしまったからかとても喜んでいた。
「この学院の人間は学と森高瑞樹くんだけだ、しかし一緒の待遇だと思わないでほしい、学は我が学院の姫であり全校生徒の憧れだ…そして君は標的…我らの敵として入る人間、今まで話した話を信じる信じないは自由だが…気をつけたまえよ、君を守る生徒はこの学院にはいない」
理事長の冷たい声が、俺の頭に響いた。
……俺は、それでも通う事に決めたから迷わない。
理事長はああ言ったけど大丈夫、俺は一人じゃない。
俺には制服がないから出来るまで前の高校の茶色いブレザーを着る事になった。
一気にいろんな事が入り頭の中がぐちゃぐちゃになるから一つ一つ整理する。
そしてしばらく経った時、理事長室のドアが叩かれた。
「…来たようだね、入りなさい」
理事長はソファーから立ち上がり訪問者を招いた。
訪問者はゆっくりドアを開けて隙間から覗き込んでいた。
「…し、失礼します」と消え入りそうなほど弱々しい声が静かな理事長室に響いた。
恐る恐る理事長室にやって来たのは学ランの生徒……吸血鬼だった。
しかし理事長に言われた俺がイメージしていた人を襲う怖い感じの吸血鬼ではなく……なんかおどおどした弱々しい吸血鬼だった。
背は高いが気は小さそうだ、黒髪で前髪が長いせいで目がほとんど隠れてて顔半分見えない。
…一言で言うと、根暗だ………昔の俺を見ているようだ。
「…紹介しよう、森高瑞樹くん……君の同室者の白山 玲音 くんだ」
「……よ、よろしくお願いします」
若干ぎこちないが、根は優しい人らしく、立ち上がった俺の前に来てニコッと笑って手を差し伸ばした。
俺もこれから一緒に生活するから愛想良く笑い握手を交わした。
関わりたくないと思っていたが、何だか彼なら上手くやれそうな気がした。
多分彼は俺が人間だと知ってると思う、一緒に住むんだし標的なら隠す必要もないしな。
理事長のように殺気はないし、ほんわかしていたから俺の緊張も解れる。
それが油断なのかもしれないが、まだ俺は魔物の本当の恐ろしさを分かっていなかった。
俺達はお互い納得していたが、一人だけ……飛鳥くんは納得していなかった。
「なんで瑞樹とブラッドの奴を同室にするんですか?」
「…今空いてる部屋は白山くんの部屋しかなくてな」
急だったし仕方ないと思うが飛鳥くんはそれだけだと説明不足だと理事長に言った。
そういえば寮の同室って同じ種族同士じゃないんだな、なんでだろう。
それから飛鳥くんと理事長は無言で睨み合っていた。
吸血鬼だって人を選ぶ権利くらいあるだろ、俺なんか襲わないと思うが…標的になった後は分からないが…
学兄さんは吸血鬼と俺が同室だと分かりニヤニヤ笑っていた。
白山先輩(…多分)も俺と同じ事を思ったのか慌てて言った。
「おっ、俺は人は襲いませんよ!…なんか怖いし、だから安心して下さい」
「……瑞樹に手ぇ出したらぶっ殺すからな」
飛鳥くんは何を心配してるのか白山先輩を睨んで怒りのままソファーから立ち上がり早足で理事長室を出ていった。
俺達も飛鳥くんに続き理事長室を後にした。
そうだよな、吸血鬼だからって血を吸うだけじゃなく、人を殺したりもするし…いい人に見えて実は…という場合もある。
そんな事、学兄さんで嫌でも分かったのになと小さく笑う。
…でも、何でもかんでも疑っていたら誰も信じられなくなりそうで怖いんだ。
誰でも信じるわけではないが、自分がこの人なら大丈夫だって思えたら信じようと思った。
部屋に残された理事長は理事長席に戻り静かに微笑んだ。
「……人間などすぐに死ぬだろうが、それまで…楽しみにしておこう」
さぁ、楽しい楽しい血祭りの始まりだ。
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