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第17話

学院を出て、白山先輩の案内で学院と寮を繋ぐ並木道を歩いていた。 緑が爽やかな6月の季節だというのに木は枯れていて葉が一つもない。 まだ夜ではない筈なのに肌寒い風と真っ暗な空に時間を忘れてしまう。 この学院に日が差し込む事があるのだろうか。 フィクションの吸血鬼は太陽の光が苦手だからこの学院の吸血鬼も苦手なのかもしれない。 「……白山先輩…でいいですよね」 「あ、うん…瑞樹くんは一年生だよね、俺は三年だから……あ、でも敬語はなしだよ…これから友達になるんだし」 「……友達」 生まれてずっと英次しか友達がいなくて、嬉しくなったと同時にもどかしくて照れくさい。 こんな俺でも友達になってくれるのか? たとえそれが嘘でも今は素直に喜んだ。 心の何処かで嘘だと思いたくない自分がいるのだろう。 裏切られたら俺の見る目がなかったとその時考えればいい、そう思った。 俺は玲音(白山先輩にそう言えと言われたから俺も瑞樹と呼んでもらう事にした)を見ていたから英次がこちらを睨んでいたとは知らなかった。 「瑞樹の親友は俺だけなんだからな!」 「わっ!どうしたいきなり」 「瑞樹は皆に愛されてるんだね」 英次がいきなりのし掛かるように俺に抱きつくから驚いて立ち止まり心臓が忙しくばくばくしている。 それを玲音は微笑ましそうに笑って見ていた。 …玲音はまだ会ったばかりだから知らないんだ、俺は愛されてなんかいない。 臆病で泣き虫で怖がりな醜い存在なんだ。 きっと俺を気にかけてくれる英次と飛鳥くんが特別なだけだと思う。 さっきまで黙って見てたが、愛されたい代表のような学兄さんは面白くなかったのか俺達を見て大きな声を出して「お前らお似合いだな!根暗同士仲良くしてろよ!!」と言った。 自分の話題以外で盛り上がるのが許せない学兄さんはそんな事を言っていた。 玲音は困惑している………ごめん、学兄さんが迷惑掛けます。 「皆、学くんの事…可愛いとか何とか言ってたんだけど……本当に兄弟?だって瑞樹の方が…」 「…え?」 「い、いや…何でもないよ!!」 途中で言うのを止めたから不思議に思い、玲音を見たら目が合い玲音は顔を真っ赤にして慌てて顔を逸らした。 ……なんだ?変なところで止められると気になる。 兄弟を疑われた事は何度もある、美形二人に挟まれた次男が似ても似つかない凡人だから当然と言えば当然だけど… だから遠慮しなくて良いのに、今さら何を言われたって傷付かない。 ……さすがに嫌いとか言われたら悲しいけど… しかし玲音はもうこの話をする気はないのか話題を変えた。 「なにか困った事があったら先輩の俺に何でも言ってね!」 「あぁ、ありがとう」 「…なんで俺がこんな奴と同室になんなきゃなんねーんだよ」 英次がまだ愚痴のように後ろから言ってくる。 飛鳥くんは英次を見て嫌そうな顔はするが呆れてため息を吐いた。 もう俺の同室者について何も言わないようだ。 昔から無理だと分かっている事はしない性格の飛鳥くん。 だから無関心とか冷たい印象を受けてしまうがちゃんと自分の意見は言うし俺の同室者の件の時もそうだったが意外と熱い性格だったりする。 でも珍しかったな、同室を変えられないのは英次ので分かってたのに理事長にあんな風に言うなんて… 「まぁ、兄貴よりマシか…」 「…学兄さん?」 そういえば学兄さんがいつの間にかいなくなってしまった。 玲音に聞くと誰も構わないからつまんなくなり走って帰ったらしい。 学兄さんらしいなと苦笑いする。 学兄さんはマイペースで自由に生きていて時々羨ましいと感じる事がある。 俺もあんな風に自由に言いたい事言えたらいじめられなかったのかもしれないけど… …学兄さんみたいにいろんな人に好かれたいとは思わないが卑屈な性格は直せたかもな。 でも、俺は俺だから…今の俺を大事にしたい。 「俺、前は兄貴と同室者だったんだよ、だからよく連れまわされたりうるさかったし…最悪だった」 そういえば飛鳥くんが英次と同室者なら学兄さんは何処に行ったのだろうか。 …人気者の学兄さんなら何処に行っても上手くやっていけそうだから心配はしていないが普通に疑問だった。 寮に着き、広いエントランスが見えた。 学院が洋風なら寮は和風の屋敷のような建物だった。 扉が全て襖で、エントランスから見える談話室が畳だ。 でもエントランスは大理石のようにキラキラしていた。 洋風と和風がごっちゃになっていて不思議な空間を好奇心で見渡す。 …なんだかこのワクワクした感じ、久々だな。 「じゃあ瑞樹は俺が案内するから君達は帰っていいよ」 「はぁ!?ふざけんな!!」 「………」 英次は今にも玲音に飛びかかりそうな雰囲気で飛鳥くんは静かに睨んでいた。 玲音は全然気にせず俺を引っ張り歩いていく。 意外と強引な玲音に驚いた。 二人を置いてきていいのだろうか。 寮は一緒だから皆で行けばいいと思うんだけどな。 心配になり二人の方を振り返ると、もう二人はいなかった。 「れっ、玲音!飛鳥くんと英次が…」 「さっき学くんが走ってきてたから追いかけっこしてるんじゃない?」 「え!?大丈夫かな…」 「大丈夫だよ!飛鳥くんは慣れてるから」 まだ心配な俺だが玲音は気にしないようで寮の案内を始める。 エントランスを抜けると二つの襖が廊下を挟み向かい合っていた。 一つは白い襖に赤いものが所々こびりついていた。 …模様であってほしいと願う。 もう一つは赤いのはなくて襖の真ん中に魔法陣が薄く浮き出ていた。 「吸血鬼と魔法使いは別々のフロアで、右側が吸血鬼で左側が魔法使いのフロアがあるんだ」と玲音は説明した。 そこである疑問が浮かび首を傾げた。 「あれ?吸血鬼と魔法使いが同室になる事はないのか?」

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