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第20話
玲音が答えてくれたのは良いんだが、驚きすぎて固まった。
血は分かっていたが………花を食べるってなんだ?
……ヤバい、花を食ってる変な想像しちゃった。
人間の世界にも食べられる花はあるがそういう事ではなさそうに感じた。
飛鳥くんは吸血鬼は花を食べるなんて初耳だったのか苦い顔をしていた。
俺が何を想像したのか顔色から見て気付いて玲音は慌てた。
「ち、違うよ!花っていうか……花の生命を吸収するんだよ!」
「…え、そうなのか?」
花の生命を吸収する意味が分からないが、とりあえず俺の勘違いだったみたいで良かった。
花なら何でもいいのだろうか、今度玲音と飛鳥くんのためにベランダで花を育ててみようかな。
ここに花の種は売っているか分からないけど…人が利用するの生花店の種でもいいかな。
飛鳥くんは「俺はやり方とか知らないし、瑞樹の手料理がいい」と言ってくれた。
嬉しかった、飛鳥くんにそんなに気に入ってもらっていたなんて知らなかった。
英次は飛鳥くんをからかうネタがなくなり落ち込んでいたが、それは誰も知らない。
「…あ、でも人間の食べ物を好む吸血鬼はいるよ、満たされ感は薄いけど俺の知り合いはカップラーメンとか食べてるし」
「……そう言われれば店の半分以上は人間の食べ物が多いな」
見た事のないものもあるが、だいたいは誰もが一度は見た事がある食材とかが売っていた。
カレーのルーはないからもしかしたらカレーを取り寄せてる人がいないのか……今度取り寄せてみよう。
とりあえず今日は卵や調味料、野菜などを買ってオムライスにしようと思った。
玲音は人間の食べ物は食べた事がないらしくオムライスにわくわくしていたが英次が意地悪で「血のように真っ赤な食い物」とか言うからちょっと引いていた。
……確かに中はちょっと赤いけど、見た目は黄色だ。
会計も携帯道具で、俺はまだ持ってなかったから玲音に奢ってもらった。
「悪いな玲音、携帯道具が支給されたら返すから」
「いいよいいよ!瑞樹の手料理が食べれればそれでいいよ!」
俺の料理にそこまで価値があるとは思えないが、玲音の優しさに感謝して口に合うように頑張ろうと思った。
部屋に戻ると皆は行儀良くリビングのテーブルに着き黙って待っていた。
……無言のプレッシャーがなんとも言えないな。
深呼吸して、いつものようにやればいいと料理を作る。
その間、妙に熱い視線を感じたが気にせず皿に盛ったチキンライスの上に黄色い玉子を乗せる。
オムライスの皿を玲音達の前に置くと玲音の頬が僅かに赤くなっていた。
「これがオムライス?」
「瑞樹はやっぱ料理上手いな」
「うんうん、これならいつでも俺の嫁になれるな!」
英次の冗談はいつもの事なのでスルーする事にした。
俺を掃除と料理が出来る家政夫とでも思っているのか。
将来はちゃんと優しい奥さんもらえよと心の中で思う。
俺も席に着き、皆声を合わせて「いただきます」と言った。
皆喜んで食べていて、やっぱり皆で食べた方が美味しいなと感じた(しかし英次がなんかうずくまったからどうしたのかと聞いたら飛鳥くんが笑顔で「気にしなくていい」と言っていた)
玲音も夢中で食べていて、口に合って良かったと思った。
「瑞樹の手料理毎日食べたいな、俺も邪魔にならない程度に手伝うから……駄目かな?」
「良いけど、俺よりプロが作った料理の方が美味しいんじゃないか?食堂に行きたくないなら料理をテイクアウトとか出来ないのか?」
「出来るけど…瑞樹の!が食べたいの!」
「…あ、ありがとう」
なんかそう言ってもらえると作った甲斐があったな。
飛鳥くんと英次が玲音を睨んでるのがよく分からなかったが…
食べたいなら二人の分も作る、こんな俺でも必要としてくれるなら嬉しい。
後片付けをしようとする飛鳥くんと英次をもう遅いからと帰して、玲音はお礼にと皿洗いを手伝ってくれた……気を遣わなくて良いのに…
水が流れる音と食器が擦れる音が静かな空間に広がる。
玲音は皿洗いをした事なかったのか一つ一つ教えながら進めていくと玲音が口を開いた。
「ねぇねぇ瑞樹、明日のご飯は?」
「ハムも買ったから明日の朝食はハムエッグにしようと思ってる」
「へぇー、楽しみだなー」
玲音は唯一見える口元を緩めて楽しみにしていてくれる事が分かる。
何度も皿を手からつるつると滑りそうになるのを助けながらこんなに楽しい皿洗いは初めてだと感じた。
綺麗になった皿を眺めて玲音は満足そうだった。
皿洗いが一通り終わった頃、玲音は俺の方に体ごと向けて真っ正面から見ていた。
何があったのか俺も同じように真っ正面を向くとずっと気になってたのか玲音は不安そうに俺を見ていた。
ポタポタと蛇口から水滴が落ちる音が耳に届いた。
「瑞樹はなんで人なのにこの学院に来たの?」
「……それは」
答えにくい質問で納得できる事が言えず言葉が詰まった。
隠す事はないし本当の事を話してもいいが、変だと思われるだろうな。
怪しい男に脅されて転校してきたなんて誰が信じる?
玲音をジッと見ていると、髪の隙間から瞳が見えた。
綺麗な真っ赤な燃えるような赤い瞳……俺は下手な嘘は通用しないと思った。
信じてもらえない事を覚悟して玲音を真っ正面から見つめる。
「呼ばれたんだよ……見た事もない男に…俺はそれに着いてきた…それだけだよ」
「そんな怪しい奴のなんで言いなりなんかに」
「……英次のため…って言えば聞こえはいいけど、本心はどうなんだろう…実家にいたくなかっただけかもしれない、あの家にいると息苦しくて」
「………瑞樹」
俺の下手な説明じゃ何も分からないだろう、でも玲音は深くは聞いてこなかった。
俺が全て話すまで待っていてくれるのか…玲音の優しさに感謝した。
英次達に言えなかった俺の悩みを玲音に言えて少しすっきりしたが、今後の事を考えると頭が痛くなってきた。
……何も考えず此処に来たが、命を狙われるなんて…
玲音は俺が標的になったって知ってるのだろうか。
いや、心配掛けてしまうから公式に発表されるまで黙っていよう。
隠し事をしてしまう事になるがごめんな、玲音…
「これからどうするの?瑞樹は普通の人間だし、学院の授業には戦闘術とか習うし…」
「…そうだな、一応俺…護身術とか身に付けてるからそれで何とか…」
「もしかして、その人間の護身術で人間を狙う魔物達を相手にしようとか思ってない?だから瑞樹は平気な顔をして俺の前にいるの?」
「……それは」
玲音が平気なのは勝てるからではなく友達になりたいと思っているからだ、他の魔物達に関しては考えてなかったといえば嘘になる。
俺はひ弱ではない、もういじめられないように独学で護身術を学んだ。
吸血鬼とか魔法使いとか言っても人と変わらない容姿だし、逃げるだけなら護身術は効くと思っていた。
それが浅はかで甘い考えだとすぐに思い知らされた。
玲音は俺に近付き肩を掴んだと思ったらそのまま床に押し倒した。
頭を支えてくれたから痛みはなかったが両手は玲音に掴まれていて身動きが取れない。
キッチンの床だからか、左右は壁だし目の前は玲音が馬乗りになるようにして乗っかってるから俺の逃げ道がなくなった。
玲音の顔色を伺うと……眉を寄せて怒っている。
第三者から見たら危険な気がするだろうが俺は別の事を考えていた。
さっきまで顔半分分からなかったが、玲音の素顔ってかなりの男前なんだというほどさっきよりよく顔が見える……そりゃあもう学兄さんが飛び付くぐらいにモテるだろうな。
絶対前髪で損してるよな、なにか事情があるんだろうけど…
俺が考え事をしていたら無言で俺を見ていた玲音が口を開いた。
「瑞樹、抵抗してみて…出来る?」
「…っ」
玲音の言う通り腕を掴む手から逃れようと抵抗するが、びくともせず驚く。
玲音も弱くはないだろうけど、こんなに抵抗出来ないなんて…
人間と魔物の力の差を嫌というほど見せつけられていた。
玲音の体が俺の足の間に割り込んできて足も上手く動かなくなる。
体をぐっと密着してきて腰を動かしてきて擦れる。
玲音が何をしているのか分からないが体がビクッと変な感じがする。
俺のをズボン越しに擦られ熱い吐息を吐くと玲音は何ともないのか冷静に口を開いた。
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