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第21話

「……瑞樹はなんでこの学院に人間がいないか分かる?」 「はぁっ…え…それは、吸血鬼と魔法使いしか通えないから?…ぁ」 ずっと玲音から逃れようと腕を動かしてる時にいきなり声を掛けられたから驚きながら答えると、玲音は静かに首を振った。 人間は俺と学兄さんしかいないからそう思っていたが違うのか? 玲音に好き勝手されて男として情けなく思い腕と足が無理なら体全体で逃れようとする。 しかし玲音に擦られているから俺も擦ってしまうから早々に体を動かすのは止めた。 足で蹴ればいいだろうが、せっかく友人になったのに傷付けたくない。 「…理事長先生からこの学院が造られた話を聞いたと思うけど、この学院は長年姫を探していたんだ……最初は姫探しのために全校の半分の数の人間を入学させていたんだよ」 「そうだったのか…」 確かに姫は人間だと理事長が言っていたから人間の中から姫を探すのは当たり前だ。 ……けど、なんで今は俺達しかいないんだろう。 学兄さんが入学したからという理由じゃないような気がする……学兄さんが入学しても2・3年に人間はいるはず… 疑問に思う俺に言いにくそうに玲音は重い唇を開いた。 腰の動きも止まりまだジンジンと痛むがホッとため息を吐いた。 でも腕を掴む手は力を緩めてはいなくて逃げられそうもない。 「…殺されたんだよ、人が嫌いな吸血鬼と魔法使いに…だからもう人間は姫しかいないんだ」 「………」 言葉にならず固まった、学兄さんが来る前はこの学院で大量虐殺が日常茶飯事だったそうだ。 この世界では命が簡単に消える、俺が標的になったのもきっとその人間の大量虐殺の延長戦みたいなものなのだろう。 玲音は掴んでいた腕を解放して俺の頭の横に手を付いた。 手の跡が付いていると思っていたが、玲音は力加減をしていたらしく少し赤くはなっているが明日の朝には消えるほどに薄いものだった。 加減していた玲音にも敵わないなんて、人間がどんなに弱いか身をもって知った。 ………どうにかなるだろうと思っていた俺の考えは粉々になり消えた。 「瑞樹にとっては誰かが死ぬとかはきっと無縁だったから分からないと思うけど、人間は邪魔で嫌いな虫を殺したりするでしょ?意思で殺さない人も無意識に蟻を踏んでいたりする…魔物にとっての虫は人間なんだよ」 「……俺達人間が邪魔で嫌いって事か」 俺の言葉に玲音は迷いなく頷く、玲音も俺の事が嫌いなのだろうか。 虫を殺すように魔物も人間を簡単に殺すのだろう。 玲音が言いたい事は、俺がこのまま平和的な頭で生活してたら必ず死ぬという事だろう…実際玲音からしたら無防備に見えたのだろう。 それを玲音は身をもって俺に教えてくれたんだ。 あの腰の密着はよく分からないがそれにも理由があるのだろう。 俺の力なんて、何の役にも立たない…人間とはあまりにも弱い。 「誰かを殺す事が生きるために当たり前で、罪の意識はないんだ」 「玲音は、俺が…嫌いか?」 「人間は正直好きじゃない、でも瑞樹は嫌いじゃないよ」 玲音はそう言い悲しく微笑んだ、嫌われていなくて良かった。 学兄さんはひ弱だが姫だから危険な目には合わないから大丈夫だろう。 いくら俺が鍛えてたって人の力には限界がある。 きっとその限界は魔物の最低ラインも超えてはないのだろう。 どう頑張ったところで人間は魔物には勝てない。 自分が思っているよりも、無事に卒業は難しいものだったんだな。 「…瑞樹、一人でどうにかしようと思わないで…俺を頼ってほしい…俺だって吸血鬼だ、瑞樹を守る力はある」 「………玲音、ありがとう」 守られてばかりは嫌だが、生きるためには受け入れる事も大切なのかもしれない。 玲音は肩を震わせて俺の肩に顔を埋めた、守ると言ってくれて嬉しかった。 泣いてはいないのだろうが、玲音の後頭部を撫でると少し強く抱きしめられた。 今この瞬間俺はこの学院に来て、初めての友人が出来た。 気恥ずかしくて本人の前で言えないが、とても大切にしたいと密かに思っている。 玲音は顔を上げて俺と目を合わせた、どちらが先か微笑みあった。 「クラスは違うから四六時中一緒にはいられないけど、マギカクラスにいる時は瑞樹の友達を頼って……一応まだ未熟だけど、いないよりマシだから…」 英次……酷い扱いだな、雰囲気がイジメやすそうだからかな。 俺はここでは一番弱い、守ってもらうしかないのか……なんか悔しいな。 俺にも不思議な力があればいいのにと手のひらを見つめる。 玲音は力強い瞳だけど、何処か寂しそうな顔をしていた。 俺の服の袖をキュッと掴んで、少し指先が震えているように感じた。 「…瑞樹の味方は此処にいるよ、だから…大丈夫だよ」 そこで理事長が俺に言ったあの言葉を思い出した。 ー君の味方になる生徒は一人もいないよー きっと玲音は理事長の言葉を偶然聞いてしまったんだろう。 あの後すぐに玲音が現れたからその可能性はある。 俺は玲音の頭を撫でた、優しい玲音…君が心を痛める必要はないんだよ。 「…ありがとう玲音、その時はよろしくな」 玲音と何でも打ち明けられる仲になれたような気がして、俺が笑うと玲音もさっきの悲しい顔とは違いヘラッと笑って再び抱きついてきた。 明日はいよいよ登校初日だから今日はもう寝ようと思い、玲音に言った。 玲音が背中を痛めてないか心配しているが大丈夫だと笑った。 本当はちょっと痛いけど我慢できないほどではないから玲音には言わなかった。 また玲音が俺を心配して悲しい顔をするのは見たくない。 残酷なほど優しく、悲しい物語はもう始まっている。 ーーー 「瑞樹の料理美味しいね!」 「…ありがとう」 翌日の朝の風景…昨日の約束の通り玲音に朝食を作った。 美味しそうに食べる玲音を見て俺も嬉しくなった。 今日は英次と一緒にまず挨拶をしに職員室に向かおう。 俺の携帯道具はまだないから玲音に頼んで貸してもらった携帯道具で英次の名前を検索してメールを昨日送ったら朝一メールで英次から迎えに行くと来たから待たなくてはならない。 食器を片しながらリビングの壁に掛けてる時計を見る。 しかしいくら待っても英次と多分飛鳥くんも来ない。 「…ちゃんと届いてるのかな?」 「返信が来たから大丈夫だよ」 「……名前を検索しただけでアドレスが出たけどプライバシーとか大丈夫なのか?」 「アドレスだけなら気にする生徒はいないから大丈夫だよ!まぁ有名人には連絡出来ないようになってるけど」 それって大丈夫って言うのか不安になってきた。 携帯道具は外とは繋がっておらず学院の敷地内のみで使用できるみたいだ。 ちなみに外から持ってきたスマホは学院の敷地内では機能しない。 ずっと圏外になっている…この学院はいろいろと不思議だ。 まぁ、ここでは外の常識が通じないから当然か。 壁に飾っている時計の針の音が静かなリビングに響く。 「…来ないな」 「寝坊したんじゃない?先に行こう」 「いや、行き違いになるとヤバイし…ちょっと待ってみよう」

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