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第25話

生徒がほぼ全員俺を見ていた。 これは明らかな殺気だろう。 人間のにおいは消したし、まだ俺が人間だと知ってるのは一部の生徒だけではないのか? もしかしたら着ている制服に問題があるのかもしれない。 英次は支給された制服だが、俺は前の高校の茶色いブレザーを着ている…だから異端に見えるのかもしれない。 英次が心配そうに見るから微笑む。 「迷惑掛けないように誰も隣にいない席にするよ」 「じゃあ俺はその隣!」 俺は窓際の一番後ろの席にしようと歩き出して、英次は空いてる隣にしようと着いてくる。 殺気は凄いが、手を出す生徒はいないようだ。 この教室のリーダーのように俺を睨んでいる学兄さんは俺が選んだ席を見て隣の学兄さん好みの爽やかな少年とガラの悪そうな不良のような生徒とクスクス笑っていた。 …なんだ?この机がどうかしたのか? 俺が席に着き英次も同じようにしようとしたら周りの生徒がギョッとした顔をして見ていた。 そして俺達の前の席の気弱そうな少年が恐る恐る英次に言った。 「き、今日休んでるけど…その席はダメだよ」 「えー、そうなのかよ」 英次は残念そうに席から立つ。 それから改めてキョロキョロと周りを見ると、俺と真逆のドア側の席しか空いてなかった。 英次が「寒いー遠いー!!」と叫んでいたら担任が教卓を蹴り飛ばしたから大人しくドア側の席に向かった。 無関係なのにとばっちりを受けた前の席の生徒が可哀想だった。 …そうか、俺の隣は誰かいるのか…悪い事をしてしまった…空いてる席は二つしかなかったから英次と変わりたいが結果は同じだから止めておく。 担任の授業が始まった。 教科書も何も貰ってないし、隣の席の生徒はいないから耳で聞きながら授業を受けた。 ノートは前使ってたのを持ってきたから黒板の文字を写す。 言語が日本語で良かった、日本語を喋ってるし名前も日本人みたいだから似てるのかもと思いながら魔法使いの歴史を学ぶ。 午前の授業が終了した。 授業中ずっと凄い周りから殺気が飛び交っていた。 慣れれば平気になるだろうか、昔から似たような視線を感じていても気になるから慣れそうもないが… 当然だが俺に近付く奴は一人もいなかった。 英次は必死にこっちに来たがっていたが学兄さんがズルズルと引っ張って何処かに連れてかれた…きっと昼飯を食いに行ったんだろう。 俺はどうするか……なんか居心地が悪いし、玲音の教室でも行こうかな。 今朝の事を謝りたいし… しかし、一人でブラッドクラスは危ないだろうか。 とはいえ英次はいないし、他に頼れる人がいない。 仕方ない、諦めよう…なにかあって迷惑かけたくないし… 「ねぇ君」 「…?」 机でボーッとしていたらいきなり声を掛けられた。 驚いてそちらを見ると可愛らしい顔の少年が三人立っていた。 彼らが誰だが知らないが、好意的の裏に隠された顔が透けて見える。 こういう相手には何度も会っている…結果は確実に良くない事が起きる。 とりあえず声を掛けられたから無視するわけにもいかず「初めまして」と挨拶する。 しかし返って来たのは挨拶ではなかった。 「ちょっと話があるんだけど、来てくれるよね」 首筋にヒヤリと冷たい感触がした。 それは可愛らしい少年の一人の細い指から伸びた爪だった。 鋭く伸びた爪が軽く首を押している、少しでも力を入れたら穴が開くだろう。 この場で助けを求めても周りはクスクス笑うだけで助けてくれる人は一人もいない…たとえ俺がここで死んでも変わらないだろう。 この場に英次はいないし、一先ずここで死ぬわけにはいかないから従おう。 何処かにきっと逃げ道があると信じて… 立ち上がるとニヤリと可愛らしい顔が不気味に歪んだ。

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