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第26話
※飛鳥視点
瑞樹達と別れてブラッドクラスがある校舎の中に入る。
ブラッドクラスの校舎はマギカクラスの校舎より奥の裏庭に扉ある。
マギカクラスの校舎は強力な結界があり、並の吸血鬼は入る事が出来ない…今まで入りたいと思った事はないが、今は瑞樹がいるからな……心配で行きたいがさすがに俺でもあの結界をぶち破るのは難しい。
此処からは東西南北全て吸血鬼となる。
居心地がいいわけじゃない……むしろ最悪だ。
生まれてからずっと吸血鬼としてきた奴らには俺は異端児に見えるらしい。
…ダンピール、吸血鬼の半端もんというのが吸血鬼から見た俺だ。
俺は子供の頃吸血鬼に噛まれて吸血鬼の唾液から傷口にウイルスが入り込み、感染して半端もんになった。
……でも俺は後悔してない、瑞樹を守った勲章だとも思っている。
吸血鬼に襲われそうになった瑞樹の代わりに噛まれたんだ、瑞樹に傷一つなくて良かった。
昔噛まれたが今はもうない噛み跡があった首筋に触れる。
……俺はあの時誓ったんだ、瑞樹を全てから守ると…
「あれ?どうしたの飛鳥くん、入らないの?」
「……」
F組と書かれた教室の前で立ち止まっていると、白山玲音がこちらにやって来た。
S,A,B,Fとクラスが分かれている、簡単に言えば力によってランク付けされている。
ちなみに俺の能力自体はA組以上だが、ダンピールだから問答無用でF組に入れられた。
普通の高校と違い、年齢が分かれていないので上級生と下級生が同じクラスになる事は珍しくない。
コイツもクラスメイトだが、随分とふざけてる奴だと昨日嫌というほど見た。
白山玲音……俺はコイツが嫌いだ。
……俺と同じ吸血鬼のくせに瑞樹の傍にずっと居られる同室者…物凄く腹が立つ。
なんでこんなにイラつくか、その理由にはとっくに気付いているが気付かないフリをする。
……だって瑞樹は俺の兄だから…
「……」
だけど、事実なのに血が繋がってる兄弟だと認めたくなくて…兄だと瑞樹を呼べないのがその証拠だ。
5歳までは瑞樹をお兄ちゃんと呼んでいた。
でも、きっかけは些細な事で俺は自覚してしまった。
……俺は瑞樹に兄よりも深い感情を抱いている、誰にも言えない…感情。
ずっと無言で無視していたから白山玲音は首を傾げたまま何も言わず俺より先に教室に入っていった。
血なんて繋がっていたくなかった、他人だったらもっと素直になれたかもしれないのに…
「……はぁ」
「随分大きなため息だね、またお兄さんがなんかやらかした?」
教室に入り、自分の席に着くと横から変声期がとっくに過ぎてるのに高い声を出す女みたいに可愛い顔のクラスメイトが話しかけてくる。
俺は苦笑いしながら答える。
俺のブラッドクラスで唯一の友人である小泉 琉弥 は大袈裟に驚いていた。
愛らしい外見に親衛隊なんてものを持つ琉弥だが、ダンピールの俺と仲良くしたかったらしく、しつこく話しかけてくるから最後は俺が折れて友人になった。
瑞樹以外には興味ないんだけどな……琉弥はマスコットみたいだから気にならない。
…琉弥は他のブラッドクラスの奴らとちょっと感覚が可笑しい。
ブラッドクラスの生徒のだいたいがマギカクラスの生徒を餌だと思って狙っている。
……無謀な事に魔法使いの次期王を狙う奴も多く行方不明者が続出しているとか…
ブラッドクラスはマギカクラスにかなり恨まれていたりする…何もしなくてもブラッドクラスというだけで…
琉弥は吸血鬼のくせに魔法使いの次期王である千羽架院のファンだったりする。
正直千羽架院のファンはマギカクラスにかなりの数存在する。
しかし、千羽架院を守る親衛隊なんてものが非公式にあるらしく、周りのファン達は過激派の親衛隊が恐ろしく隠れファン止まりだったりすると琉弥に聞いた事がある。
琉弥の話によればブラッドクラスにも隠れ千羽架院ファンはいるみたいだ、物好きだな…兄を好きな俺が言えた事じゃないが…
琉弥も隠れファンで「どうせ話せないし、遠くから眺めてるだけで十分」と言っていた。
「……良い事と悪い事がごちゃ混ぜになった気分だ」
「うわっ、それはそれは複雑な心境だね」
琉弥は両手を前に出しオーバーリアクションをしてみせた。
良い事は勿論瑞樹に会えた事だ。
吸血鬼だから入学しなければいけないと兄貴に無理矢理一緒に受けさせられたクロス学院の入試の時に理事長に言われ、俺は全寮制なんて瑞樹と会えなくなるから嫌だったが…それと同時に吸血鬼の吸血衝動が歳を重ねるごとに増してきたらこのままだと瑞樹を襲ったあの吸血鬼のように俺も瑞樹を襲ってしまうかもしれないと恐怖して逃げるようにクロス学院に入った。
そして悪い事は勿論白山玲音と瑞樹が同室者になった事だ。
俺が吸血鬼だから瑞樹と少し距離を置いたのに別の吸血鬼が傍にいたら意味ないだろ。
それにあの男、不気味だし…瑞樹になにかするんじゃないかって心配だ。
…いっそ俺があの男を殺して…瑞樹の傍にいた方が安全では…
「今日は架院様お休みなんだぁー、鳥 ちゃんと同じ複雑な気持ちなの」
「……いや、同じじゃないだろ」
はふっとため息を吐く琉弥に呆れつつ考える。
……白山玲音は嫌いだが、琉弥はむやみに人を襲ったりしない…むしろよく同族に襲われてるからほっとけないんだけど…
琉弥なら瑞樹に紹介出来るな、琉弥は千羽架院ファンだから瑞樹に興味ないだろうし…
きっと仲良くなれる筈だ。
いっその事瑞樹の友人は琉弥だけにしようか。
白山玲音も英次もいらないよな。
「…琉弥、会わせたい相手がいるんだけど…昼休み大丈夫か?」
「ん?いいよー、なんかその言い方だと鳥ちゃんの恋人紹介されるみたいで緊張するなー」
……本当にそうだといいけどな。
俺は誰にも気付かれないように苦笑いした。
俺が瑞樹と赤の他人だったらきっと瑞樹に会えなかっただろう…瑞樹は気を許してくれないだろう。
そう思うと、もう少し瑞樹の弟でいたいと思う。
瑞樹が大切に思う奴が現れるその時まで…
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