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第29話
「姫、俺の名前は仁科 誓司 …姫にだけ特別に下の名前で呼んでね♪」
そう言う少年…誓司先輩は今度こそその場を立ち去った。
短い時間だっただろうが俺にとっては長く感じた。
二回も助けられたな、今度また会う事が出来たらお礼がしたいな。
でもあの人が喜ぶ事がいまいち分からない。
……いつもなんか喜んでいる気がする、理由は分からないが…
飛鳥くんは誓司先輩を一睨みしてから俺の方に来た。
「瑞樹大丈夫か?」
「…ありがとう、平気だよ…それより二人はなんで此処にいるんだ?」
俺は二人にブラッドクラスに行くとは言ってなかった。
そもそもあれは突然連れてこられた誰かに言う余裕がなかった。
言えればこんな事にはならなかったのだろうと反省した。
次からはどうしても行かなくてはいけない時は誰かに知らせよう、なにがあっても…
何故二人は知っているのか、どうやって知ったのか気になってたから聞くと飛鳥くんは苦い顔をしていた。
なんで飛鳥くんはそんな顔をするのだろうか。
「クラスの奴らが話してるのを聞いたんだ、マギカクラスの奴がブラッドクラスの奴にどっかに連れていかれたって」
「ブラッドクラスに来るマギカクラスの生徒なんて森高学かブラッドクラスを知らない瑞樹だけだと思って、森高学だと姫って呼ばれるから瑞樹しかいないって物凄く焦った顔で言われて驚いたよ、俺…ご飯食べてたんだけど」
「……そんなのより瑞樹が大切だろ」
飛鳥くんは俺を心配して来てくれたのか……申し訳なく思う。
ちゃんと伝えようと思った、内緒にする理由もないしな。
俺はマギカクラスの奴に連れてこられた事を話した。
名前は分からないし、理由もよく分からない…きっとただ気に入らないってだけだったのかもしれない。
とはいえ俺は悪くないと言うつもりはない、俺にも悪いところがあった。
脅されていたとはいえ逃げるチャンスがあったのではないかともう過ぎた事だがそう思う。
マギカクラスの奴が俺から手を離した時一瞬だけ脅しから解放された。
…あの時に、逃げていれば…皆に迷惑掛けずに済んだのに…
「飛鳥くんありがとう…心配掛けてごめん、玲音もごめんな」
「え?俺はただ着いてきただけだよ?」
「玲音にずっと今朝の事謝りたかったんだ…それなのにさらに迷惑掛けて、ごめんな」
「…そんな、いいよ…瑞樹は人間なんだから仕方ないよ」
玲音は悲しそうな、でもどこか嬉しそうな顔をしていた。
……人間だから仕方ない、その言葉が胸に突き刺さった。
俺は心配掛けるために、この学院にいるわけじゃない。
でも、俺が人間だから結果的に心配も迷惑も手間も掛けている。
生きたいと願う気持ちとは反対に、俺は生きてていいのかと疑問に思った。
そして地面に倒れてる男達を見る。
このままほっとくわけにはいかないな。
地面にしゃがみ確認すると息があるから気絶してるだけだと分かり安心した。
「彼らを医務室に運ばなきゃ」
「…いいよ、だいたい瑞樹に何をしようとしてたか想像付くし」
「コイツらが瑞樹を連れてったんだろ?自業自得だ」
飛鳥くんと玲音は冷めた目で男達を見てから俺の腕を引き歩こうとした。
きっと腹を怪我した俺を医務室に連れていこうとしてくれたのだろう。
でも俺はその場から動かず二人は首を傾げた。
襲われたのは俺だし、きっと彼らもこんな事望んでいない。
…だからこれはただの自己満足だ。
俺は倒れている男達のところに近付いた。
二人はきっと嫌だろうから一人で三人抱えようとしていたら、ため息を吐いた玲音と飛鳥くんは一人ずつ倒れている男を抱えた。
「瑞樹、お腹痛いんでしょ?俺達に任せてよ」
「吸血鬼はこんな事じゃ死なねぇから心配するだけ無駄だが、瑞樹がそうしたいなら俺もやる」
「…ありがとう」
結局また迷惑掛けてしまったな。
二人の優しさに何度も感謝した。
最後に飛鳥くんが「琉弥に何も言わず来ちまったな、約束破ったし…どう謝ろうか」と言っていたが小声過ぎて俺達は分からなかった。
医務室に運び終わる頃にはもうすぐ昼休みが終わる時間になり玲音と飛鳥くんにマギカクラスの校舎の入り口まで送ってもらった。
医務室の医者は眼鏡の優しそうな人だった、ブラッドクラスの医者だからちょっと怖かったが気が抜けた。
俺の腹によく効くという薬草を液体にしたものを塗られて包帯を巻いた。
「瑞樹、今度から一人でブラッドクラスに行くなよ…何かあったらすぐに連絡しろ」
「…分かった、じゃあまたな」
玲音達に手を振りマギカクラスの校舎の中に入った。
マギカクラスの教室に入ると真っ先になんか飛んできて痛みがなくなったと思った腹が痛くなり眉を寄せた。
痛みに耐えていたらふと視界に俺をブラッドクラスに連れてきた少年達が写った。
俺を睨んだ後、フンと目線を逸らした。
きっと見た目は無傷だから気に入らないのだろう、もう何もしないとは限らないし二度とあんな事にはならないように警戒しよう。
とりあえず俺の腰にしがみついて泣いてる奴をどうしようか考えよう。
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