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第30話

「み~ず~き~」 「どうしたんだ?英次」 英次が恨めしそうな顔をして抱きついてきて、こっちを見ていた。 確か英次は学兄さんと昼飯を食べていったんだったか? もう学兄さんに解放されたのか? 周りには学兄さんはいない、もうすぐ午後の授業なのにサボるのか? サボってもまぁ学兄さんなら怒られないだろうけど… 学兄さんが教室にいると俺を睨んでくるからちょっと緊張から解放されてほっとしている。 「さっき窓から見て飛鳥達と歩いてたよな、俺を置いていくなんて瑞樹の薄情者!!」 「悪かった、英次いなかったし」 「瑞樹が言えば意地でも着いてったのに~、もー災難だったんだよー!!学の取り巻き怖ぇし、生徒会とか言う連中も怖いし!!」 「……あー、お疲れ様」 英次はわんわん泣いていたから引きずって席に着いたが、授業が始まっても永遠と愚痴を言っていた。 俺の隣が空いてるからって座って周りに睨まれていた。 とりあえず英次を自分の席に連れていった。 さすがにずっと人の席に座るのはダメだ。 そして授業が残り数分で終わるところで担任が授業を終わらせた。 周りを見渡して面倒くさそうにボールペンで頭を掻き口を開いた。 「えー、お前らにとっては物凄くどうでもいい事かも知れない…いや、俺もどうでもいい」 何を言いたいのか分からず生徒の頭にクエスチョンが並ぶ。 どうでもいい事?でも授業を途中で終わらすくらいなら本当にどうでもいい事ではないような気がする。 そして担任は最近ブラッドクラスについて聞き回っているマギカクラスの生徒がいると話した。 なんでブラッドクラスの生徒の事を聞き回るんだ?マギカクラスにとってブラッドクラスは怖いのではないのか? 担任はどうでもいい話だと思っているが迷惑しているみたいだった。 担任の視線の先に、取り巻きと仲良く話してる学兄さんがいた。 気付いてないのか学兄さんはまだ話している。 学兄さんがブラッドクラスの事を調べてる?何でだ? 確か玲音は学兄さんもブラッドクラスに来てるって言ってたっけ。 学兄さんは何言っても聞かないと分かった担任は咳払いをしてまた生徒の方を向いた。 「どっかのバカのせいでブラッドクラスでも探る奴が増えてきた、このクラスの奴らは心配ないだろうが一応言っとく…吸血鬼の次期王を探そうとすんじゃねーぞ、今は大人しくしてるからいいが…アイツは危険な男だ、せめてローズ祭までジッとしとけよ」 吸血鬼の次期王…そういえば吸血鬼にも王様がいるんだっけ。 あの吸血鬼を束ねる吸血鬼ならきっと想像以上に危ないのだろう。 学兄さんなら大丈夫だろうけど、でもなんでだ? 学兄さんの婚約者なら普通に教えてくれるんじゃないのか? そしてもう一つ分からない事がある。 隣を見ると英次がいた、また戻ってきたのかと苦笑いする。 「……ローズ祭ってなんだ?」 「さぁ?」 俺と英次はよく分からず首を傾げた。 寮に帰ったら玲音に聞いてみよう。 授業は俺がいた高校と大差なくて遅れる心配がなくて良かった。 今日はなかったが、いつかあるであろう戦闘術の授業や魔力の授業は不安でしかない。 俺……多分この二つは赤点だと思う。 憂鬱な気分になりながらも放課後になり、前の学校で使ってた鞄を持つ。 単独行動を避けるために飛鳥くん達に連絡したいが俺は携帯道具はまだないから連絡出来ない。 隣にいる英次に頼んで飛鳥くんに連絡してもらう。 英次は玲音に連絡したくないみたいで渋っていたから飛鳥くんから玲音にも聞いてもらう事にした。 返事はすぐに来たが、飛鳥くんは部活の助っ人に呼ばれてるみたいで遅くなるから帰れないから英次と帰れとのメールが来た。 玲音も帰れないような内容だったのでちょっと落ち込んだ。 ……ま、仕方ないか。 ずっと俺の隣にいた英次を見る。 英次は職員室横に置いてあったであろう学院案内の詳しく載ったパンフレットをいつの間にか持っていて眺めてブツブツ言っていた。 「野球、サッカー、バスケ、ラグビー、陸上…」 「英次も部活か?」 「え!?あ、あぁ…ちょっと見てみたいなーって」 「すぐに終わるなら校舎前で待ってるけど」 「分かった!すぐに行くから!!」 英次は中学からずっとスポーツ少年だったからな、入りたいんだろう。 飛鳥くんも運動神経抜群だから、中学生の頃部活に入ってなかったが不定期に助っ人を頼まれてたな(だから今日も助っ人でいないんだろうな) この学院は通ってるのが人外なだけで、あまり普通の高校と変わらないような気がした…表面上は…。 待つだけなら大丈夫だろう、背後を取られないように壁に寄りかかればあの時みたいに首を掴まれる事はないだろ。 英次と一緒に廊下を歩く。 すれ違う生徒に度々「なんか人間くさくね…」「僕達のクラスの空気が悪くなる」と言われてるから、もしかしたら今朝先生から掛けてもらった消臭効果が薄れてきたのかもしれない。 俺のにおいだってまだ気付かれてないが、時間の問題だ。 英次に言って校舎を出る前に職員室に向かった。 そこで俺は大事な事に気付いた。 担任の名前が分からない。 自己紹介されてないから当たり前と言えば当たり前だけど… 名前が分からないと誰に会いにきたか他の先生に伝えられない。 F組の担任で通じればいいが…人間に敵意を向けてる先生だったら正直に教えてくれるかどうかと不安だった。 どうしようかと考えながらフラフラと歩いていたら職員室前まで着いた。 意を決してノックしようと手を上げたが、誰かが職員室のドアを開けた。 担任であってほしくて上げた腕を下ろし見ると、左目に黒い眼帯をしている先生が目の前にいた。 優しそうに微笑んでいるが、何処か背筋が凍るほどの負のオーラを感じる。 話しかけてはいけない雰囲気だが、頼る先生がこの先生しかいないからこれはチャンスだと思い眼帯の先生に聞いてみる事にした。

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