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第32話
「彼と一緒じゃないと話すら聞かないから!!」
「えっ!?」
「紅葉、我儘言って困らせてはいけないよ」
宣言通り、そっぽを向き銀髪の少年の話を全く聞く気がないようだ。
呆れた声の銀髪の少年に女子の制服を着た少年は俺を見てニコッと笑った。
……この場合俺はどうしたらいいんだ?
この人達からは殺気は感じないし、それどころか一緒にいて安心するオーラを感じた…銀髪の少年に…
なんでだろう、何だか懐かしい感じがする。
まだ英次は来なさそうだし、何よりもう少し一緒にいたいと思った。
誰かと一緒にいたらあんな目に合わないだろうし、彼らとは初対面だが大丈夫だと思えた。
「少しだけなら…」
「やった!」
「ごめんね、彼のわがままに付き合わせて」
銀髪の少年は申し訳なさそうな顔をして場所を移動するためにまた校舎の中に入った。
来た事ない二階に上り廊下の奥に進むとそこは営業終了した学院の食堂があった。
そういえば昼はいろいろあって食べてないな、明日食堂に行ってみようかなとそう思った。
銀髪の少年は話し合いをするために事前に借りていたのか、鍵を使い中に入った。
いつもは賑わってるであろう食堂には誰もいなくて不気味な静けさがあった。
そこの目立たない四人用の隅の席に着き、俺と女子の制服を着た少年が隣で銀髪の少年が目の前で向かい合い座った。
「だーかーら、私は嫌なの!!またあんな目に合うなんて嫌なの!」
「…だからそれは一部の生徒だけで、僕は紅葉の歌好きだよ」
「……それ、幼馴染み贔屓じゃないの?」
「…………贔屓って」
膨れて拗ねる可愛い少年と苦笑いする美人な少年。
全く内容が分からず、ただいるだけの平凡。
先ほどから繰り返される同じ内容の会話。
とりあえずさっきの会話で分かった事は女子の制服を着た少年は紅葉 さんという名前で、二人は幼馴染みだって事くらいだ。
それ以外は歌とかよく分からない、紅葉さんは歌手?でも凄い嫌そうだ。
俺は部外者で勝手に口出す事も出来ず、その間にも言い合いは続く。
「紅葉、君のバンドは趣味でやるには勿体無いほどの才能があるんだ…ローズ祭でそれを披露すれば君の夢だって叶う筈だよ」
「……けど、またトラウマになったら」
紅葉さんは俯いて黙ってしまった。
何故、紅葉さんがそこまで嫌なのか分からないがよっぽとなにかがあったんだろうとは思う。
自然の動きで紅葉さんは俺の手を握った。
…俺なんて、平凡で魅力なんて全くないのに紅葉さんは何故俺をこの場所に連れてきたのだろうか。
何を求められてるか分からないが、今俺に出来る事をしよう。
震える紅葉さんの手を握り返した。
テーブルの下で行われていたから銀髪の少年は気付いていなかった。
銀髪の少年は同じ事の繰り返しでうんざりした顔をして紅葉さんじゃなく、俺を見た。
碧に輝く瞳に自分が映り込むと思うと不思議な気持ちになった。
…本当に不思議だ。
「一応此処にいるんだし、君からも説得してくれないかな」
「…俺が?」
「紅葉は君を気に入ったみたいだし、お願い出来るかな?」
気に入った?俺を?
…俺の言葉で説得出来るのだろうか。
紅葉さんも顔を上げてこちらを見ていた。
……その前に基本的な事を知りたい。
理解しないと彼に何も言えない。
俺は銀髪の少年を見た。
「申し訳ございません、話の内容がよく分からないのですが…」
落ち込んだ声で言うと話してなかった事に気付いた銀髪の少年は謝ってきた。
俺ごときに頭を下げるなんて勿体ないと思いながら慌てて顔を上げるように言う。
そして話の内容に深く関わるローズ祭について教えてもらった。
銀髪の少年の話によると、ローズ祭とはこの学院の創設記念日の事だそうだ。
ただ、この学院は普通の学校の創設記念日とは違う。
お祭りのような舞闘会 が開かれる。
内容は舞踏会と武闘会が合わさったような内容で、クジで選ばれた魔法使い、吸血鬼ランダムの二人が手錠で繋がれ踊りながら戦うという、普通に戦うより少し難しい戦い方をする祭りらしい。
そして死ななければ五体満足じゃなくてもいいとか、恐ろしいルールがある。
ちなみに殺したり、勝手に手錠を外したらキツイお仕置きがあるとか…怖くて聞けなかった。
手錠の鎖を切れば負けとなり、多く鎖を切った者には豪華景品があるらしい。
リタイアも出来るが、リタイアするには舞闘会会場の何処かにある白旗を探さなくてはいけないらしくリタイアする奴=弱いと思われ、狙われやすくなるからオススメは出来ないそうだ。
俺は人間だから弱いから戦えないし、多分真っ先に狙われそう…嫌われてるし、ランダムで選ばれた俺のパートナーごめんなさいとまだ見ぬパートナーに心の中で謝る。
そして本題が紅葉さんだ。
紅葉さんは舞闘会を盛り上げるオープニングで演奏するバンドを頼まれていたらしい。
経験者だから頼んでるんだろうが、紅葉さんはなにかがあってやりたくないとずっと言っていた。
そして俺に説得を頼んだようだ。
「このバンドを引き受けたらまた君のファンが出来るよ、自分に自信を持って」
「……」
紅葉さんは複雑な顔をして銀髪の少年を見ていた。
もしかしてやりたくない理由ともう一つなにか理由があるんじゃないか?
…やりたくても出来ない理由、とか…
これは俺の憶測に過ぎないがそんな気がした。
俺は紅葉さんにそう聞いてみた、違ったら申し訳ない。
紅葉さんは消えそうなほど小さな声で呟いた。
「足りないのよ、メンバーが」
「…紅葉」
「アンタの弟よ、あの変な姫集団に入っちゃって私達のところに戻って来ないし、ギターがいないのよ!!」
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