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第33話
頬を膨らませて紅葉さんは怒っている。
銀髪の少年は申し訳なさそうにしていた。
……俺も物凄く申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
学兄さんの暴走は誰にも止められないし……この場にいる誰もが重い沈黙を貫いていた。
メンバーが足りないからやりたくても出来なかったのだ。
そして銀髪の少年に不満を言いたくないからずっと誤魔化していた…勿論、少しはやりたくない理由も混ざってるのだろう。
銀髪の少年は悩みに悩み、紅葉さんを見た。
「僕がやってもいいんだけど」
「…駄目よ、流石に」
銀髪の少年の提案は即却下された。
姫集団は学兄さんが悪いわけではないだろうが、弟の俺がどうにかしたい気持ちが強く…ギターは中学の頃軽音部の助っ人に行ってた飛鳥くんの付き添いで人数合わせで一度触ったぐらいだからなー…
そう考えていたらなんか熱い視線を感じると思ったら、紅葉さんがジッと俺を見てる事に気付いた。
銀髪の少年にも見られていて、気まずい…
そうだ、俺もこの会議(?)に参加しているんだ…紅葉さんの役に立ちたい。
紅葉さんと握ってない方の手をギュッと握る。
「…どうしたらいいかな、紅葉がやる気出す方法」
「…人数が揃えば出来るんですよね」
「ギターやってくれるの!?」
俺の声を遮り紅葉さんが身を乗り出して詰め寄ってくる。
それを銀髪の少年に注意されていたが、目が輝いていた。
……そこまで期待されるとは思わず、緊張する…
少し出来ると言ってもほんの少しだ。
人の倍は練習しなきゃいけないだろう。
でも、やるなら足手まといにはなりたくない。
「昔、弟が一時期バンドの助っ人をしてて…俺も少しギターが弾ける程度ですが…それで良かったら協力させて下さい」
「良いよ良いよ!練習あるのみだもん!ローズ祭は一週間後だけど何とかなるよ!!」
「………え」
もっと期間が先かと思ったが、意外と近くて驚いた。
少し不安になった……猛練習しなきゃな。
ギターは銀髪の少年の弟のを貸してくれる事になった。
問題は一つ解決したがもう一つあった。
紅葉さんはさっきまでの明るさが萎みまた落ち込んでいた。
今度はやりたくない理由だろう。
「…でも、前みたいな事があったら私…自信なくなっちゃう」
「当日僕も見に行くけど…うーん」
最初に言ってた問題らしい。
俺は首を傾げて知らなかったから紅葉さんに聞いた。
紅葉さんが苦笑いしながら話してくれた。
紅葉さんは見た目は美少女でありバンドのメンバーは親衛隊持ちの美形揃い。
だからか紅葉さんの美貌に嫉妬する生徒、親衛隊が暴動を起こしてバンドデビューの時は野次や罵倒で大変だったらしくそれがトラウマになり、もうバンドはしたくないと言っていたらしい。
親衛隊事情は学兄さんにもいたがまだよく分からないが、嫉妬して舞台をめちゃくちゃにするのは許される事じゃない。
俺は紅葉さんの不安を取り除けるか分からないが、誠心誠意で紅葉さんを見てギュッと手を握った…俺に出来る事はこのくらいしか思いつかない。
「…紅葉さん、俺が体を張って守るから安心して下さい」
「……王子様」
か弱い紅葉さんを守りたいという気持ちで真剣な顔をして言うと紅葉さんは顔を赤くした。
……王子様って…俺の聞き間違いだよな、俺みたいな凡人を王子達なんて言うわけないし…
王子達って言うならこっちの方と銀髪の少年を見ると苦笑いしていた。
そんな姿も美しくて少し見とれた。
飛鳥くんとか学兄さんとかで見慣れてると思っていたのに、なんでこんなに胸がざわつくんだろう。
銀髪の少年は心配そうに俺の顔色を伺っていた。
「大丈夫?君の強さは知らないけどもし吸血鬼が襲ってきたら、魔法使いの君は死んでしまうよ……見た事がない制服だけど、魔法使い…だよね」
「えっ、えっと…」
もうにおいを消したから人間だと疑われる事はないだろう。
こんなに俺に優しくしてくれて…嘘を付くのは心が痛んだ。
でも、言ったらどうなるかなんて分からない。
玲音は普通だったが、彼らが人嫌いじゃないなんて保証は何処にもない。
…いつかバレてしまうがそれまでこの縁を大切にしたい。
俺はさとられないように「大丈夫です」と微笑むと紅葉さんが思い出したように突然立ち上がった。
「あー!!貴方の名前聞くの忘れてたー!!」
紅葉さんの声にびっくりしながらも、そういえば自己紹介してなかったな…と思い出した。
紅葉さんの名前は銀髪の少年が口にして知っているがちゃんと紅葉さんの口から聞いた方がいいよな。
それに紅葉さんに俺の名前を知ってほしい。
紅葉さんの合図で自己紹介タイムが始まった。
紅葉さんは俺に手を差し伸ばした。
俺はその手を掴んだ。
「私の名前はもう知ってると思うけど紅葉よ!これからメンバーになるんだし、下の名前で呼び合おうよ!貴方の下の名前は?」
「俺はも……瑞樹だよ」
「瑞樹ね、可愛い名前♪」
生まれて初めてそんな事を言われてお世辞だと分かっているが照れくさかった。
最初森高と言いそうになって危なかった。
いつも自己紹介する時はフルネームだったから癖になっていた。
…流石に学兄さんの身内だと知られると人間だとバレる気がする。
苗字は言わなくても大丈夫だろうとそう思った、紅葉さんも下の名前と言ってたし…
そして紅葉さんは銀髪の少年の方を向いた。
「そんでこっちは、マギカクラスなら知ってると思うけど…」
紅葉さんが紹介しようとすると銀髪の少年が椅子から立ち上がり俺の目の前にやって来て、手を差し出してきたので握った。
……何だか分からないが、とても懐かしい感じがした。
なんでだろう、さっきからこんな感想しか出てこない。
何処かで会った?いやでも彼は魔法使いだし、それにこんな美しい人絶対に忘れない。
不思議な気持ちが強くなり、もっと知りたいと思った。
ボーッと見とれていると銀髪の少年はクスッと笑った。
「架院です、よろしくね瑞樹くん」
「……よろしく、お願いします」
架院さん……どっかで聞いたような…何処だっけ?
その答えが分からないまま手を握ると、視界に壁に掛けてある時計が見えた。
そこで魔法が解けたように英次の事を思い出してパッと手を離すと、架院さんが何か言いたげに手を見つめていた事に気付かなかった。
食堂に来た時から30分は経過していて椅子から立ち上がり紅葉さんと架院さんを見た。
もう英次は帰って来ているだろう、話に夢中になりすぎて忘れていた。
英次は心配性だから早く帰らなくては…
「…あ、すみません…俺これから用事があって」
「そっか、じゃあバンドの連絡はこれでするからID教えて?」
そこで紅葉さんが見せたのは携帯道具だった。
しかし俺は招かれざる転校生だったからまだ制服同様携帯道具はない。
これはさすがに誤魔化しきれないよな。
でも連絡手段がないといろいろと不便だろう。
携帯道具はいつ支給されるか分からない。
どうしたものかと戸惑っていたら、紅葉さんが気付いたように手を叩いた。
「あっ、そっか…瑞樹くん一年生っぽいし、もしかしてまだ出来てないのかも…たまにあるのよねー…入学生は大変ね、制服もダサいの渡されちゃったんでしょ?」
「そっか、だから見た事がない顔だったのか」
二人は頷き納得していた。
制服は前の学校のだけど携帯道具に関してはそのようなものだ。
だから俺も「ごめんなさい」と言った。
紅葉さんは「謝んなくていいよ」と笑ってくれた。
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