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第35話

玲音はすぐには分かっていなくて俺に言われて気付いたように手で叩いた。 さっきまでどちらが俺の料理を上手く褒められるかというよく分からない争いをしていた飛鳥くんと英次も口を閉ざしこちらを見ていた。 やや広いリビングの空間で玲音に注目が集まる。 今までこんなに注目された事がなかったのか照れるように頬を人差し指で掻いていた。 玲音の顔は少し明るかった、嫌な事ではなさそうでホッとした。 玲音は手元のチャーハンを見つめてポツリと一言口にした。 「なんか、いいなって思って」 「いい?」 「うん、俺…片親で兄弟もいなくてこういう騒いでいるのに慣れてなくて、瑞樹と会うまで正直苦手だった……でも、なんか今物凄く楽しい…家族ってこんな感じなのかなって」 「…玲音」 玲音が見ていたのは飛鳥くん単体ではなく、ほのぼのした空気だったんだな。 玲音がそんな事を考えていたなんて知らなかった。 俺にとっては日常的な風景だけど玲音が気に入ってくれて良かった。 俺もこのほんわかした雰囲気がとても好きなんだ。 「家族なら瑞樹が妻で俺が…」と英次がなにかを言おうとしたらその前に飛鳥くんに頭を殴られていた。 俺は男だから妻じゃないぞと一応訂正しといた。 そして楽しい夕飯はあっという間に過ぎていった。 今日はまだいたいと言った二人と玲音とで夕飯の後片付けをした。 三人いたからか予定より早く片付いて飛鳥くんと英次は部屋に戻るというから玄関まで見送った。 飛鳥くんと英次が部屋を出ていき、リビングに戻ると玲音がスマホで誰かに電話していた。 「ん……あぁ、それはお前に任せる…そんなに心配しなくても大丈夫だ」 いつものはっちゃけた様子ではなく低い玲音の声に驚く。 今朝帝さんが言っていた友達と電話してるんだろうか。 玲音の邪魔をしないように自分のスマホをテーブルの上から取りポケットに押し込んだ。 そっとバレないようにリビングのドアを開けて廊下に出た。 ちょっと早いけど歯を磨いて風呂入って寝るかな。 小さな欠伸をしながら一度部屋に戻り着替えの服を持ち洗面所に向かう。 上着、ネクタイ、シャツと一枚一枚脱いでいく。 上半身が露になった時、ふと下を向いて眉を寄せた。 腹には痛々しく包帯が巻かれているのが見えた。 とてもよく効く薬だったみたいで痛みはもうない。 しかし医務室で見た青アザが綺麗に消えてるとは思えず見るのをためらった。 包帯から顔を背けながらするするとほどいていく。 腹を押しても痛みはないからもう包帯は巻かなくても大丈夫だよな。 小さく包帯を丸めて洗面台に置いて、鏡を見つめて傷がないから英次が飲んだあの薬と似たようなものだろうかと思った。 誓司先輩は飲むと人間には劇薬だと言っていたけど俺は塗ったから平気なのかな。 下も脱ぎ携帯道具を着替えの服の上に置き風呂場に入った。 頭から暖かい湯を浴びると汚れが全て流れ落ちるようにさっぱりと気持ちが良かった。 ザァーとシャワーの音を聞きながら整理するために考える。 姫とは何なんだろう、吸血鬼とは?魔法使いとは? 初日で早速殺されそうになって……あの人…誓司先輩は何故俺をこの学院に呼んだのだろう。 詳しく聞きたかったけど怒らせてしまって聞けなかった。 「…俺は何処に言っても邪魔者なのか?」 重いため息を吐いた、何だか怠いような変な気分だな。 ゾクゾクと体中が疼いて痺れていく、息が荒くなる。 今まで感じた事がないこの感情…なんだ、これ…… 何となく下半身に視線を向けて目を見開き驚いた。 触れていないのになんで俺、こんなに勃ってるんだ? 別に変な事は考えてない、ただ今後の事を考えていただけだ。 なのに俺のそこは確かに興奮していて目を逸らしたくなる。 どうしよう、このまま出たら玲音と鉢合わせする危険がある。 そうなったらこうなった状況、言い訳しづらい。 精通はしているし自慰をした事ないわけじゃない。 ただあまりそういうのに興味がなくて、溜まるといろいろと大変だから出すくらいにしか思ってなかった。 でもここは玲音と共同で使うし、水で流してもにおいはどうにもならないし…嫌だろう。 湯から水に変えて萎えさせようと頭から被った。 少し温かくなったからってまだ肌寒い季節、今度は寒気で体が震えた。 風邪を引く前に早めに風呂から出ようと水を止めた。 冷たい水で驚き萎えた下半身を見つめて微妙な顔をしながらタオルで濡れた体を拭いた。

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