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第36話
※視点なし
学院の敷地内の薄暗い森の中、此処は生徒が滅多に入らないと言われている。
数々の恐ろしい噂があった……悪魔に取り憑かれるとか、狼に食い殺されるとか……死体を見た者もいた。
この学院では常に死と隣り合わせの毎日だが得たいの知れない者はやはり怖いと感じていた。
その森の中を無我夢中で一人の男が逃げ回っていた。
ブラッドクラスの制服は所々切れていて出血で制服を赤黒く濡らしていた。
彼は今日、してはいけないとんでもない過ちを犯した。
何も知らない無知ゆえに一人の人間を襲った事……
その事により怒らせてはいけない男を怒らせた。
彼と一緒にやった奴らは瀕死の状態だったにも関わらず、弄ぶようにしてじわじわと殺されていった。
残りの一人は一番傷が浅かったこの男だけで追い詰めていく。
走っていても弱ってるから追いつくのは容易い。
すぐに至近距離まで近付き、赤黒く光る魔剣を横に振り片足を斬りつけて男は滑るように倒れて逃げられないようにした。
片足は吹っ飛びバランスが取れなくなったが、吸血鬼は丈夫な生き物…心臓を抉るか首を斬るかしないと死なない。
両足は斬らない、まだ助かるかもという小さな期待を抱かせるために……そして絶望へと落とすために…
振り返るが男からは暗闇で目の前にいる人物が誰だか分からず、唯一見える真っ赤に染まった瞳の鋭さで怯えるだけだった。
「あ、た…助けてくれっ!!!何でもするから命だけは…」
「……何でもする、ねぇ……じゃあ死んでくれ」
血を吸い込み赤黒く輝く魔剣を軽く振り上げて片腕が吹き飛び、声にならない叫び声を上げる。
周りの木が赤く濡れ、血生臭いにおいが充満する。
吸血鬼の血の臭さに顔をしかめながら一歩一歩ゆっくりと歩いていった。
そして近付いてきたと思ったら切断した腕があった場所を踏みつけ男を見下ろし、この状況を忘れるほどの美しい笑みを向けた。
しかし瞳は笑っておらずゴミを見るような目線を向けた。
靴が血で汚れるのをお構いなしでぐりぐりと痛め付けると悲鳴に似た声を発して脂汗をだらだらと流していた。
「俺もまだ血を吸ってないのにあの子に近付いて、物凄く腹が立つ」
心臓目掛けて魔剣を突き刺すと、魔剣がより赤く染み込んだ。
もう男はぴくりとも動かず息をしていなかった。
もっとじわじわといたぶりたかったが前の二人で時間を掛けすぎたと思いあまり痛め付ける事は出来なかった。
別にSっ気があるわけではない、こんな無価値な奴にSになったって仕方ない。
ただ、大切な子をあんな目に合わせたコイツらをどうしても許せなかった。
そのまま心臓を抉るように剣を引き抜き、汚らわしい血を払うように一振りした。
頭を抱えた…まだ、まだだ……まだその時ではない。
ふと気を抜くとからからに喉が渇き、誰でもいいから襲ってしまいそうだ。
この学院に入学してから輸血血液も口にしていない、別の食べ物で飢えを凌いでいた。
噂によるとあの性悪姫は吸血鬼に血を分けているという噂があった。
誰にでもではない、自分の好みの顔を選んでると聞いた。
いらないから性悪姫のところなんて行かないし…
それに口にするなら甘くて心も体も満たされるあの子の血でないと…
飲んだ事がないがそういうイメージが想像出来る。
きっと口にしたら最後、止まらなくなりそうだ。
考えただけで興奮してしまい…はぁっ、と熱い息を吐く。
「覚えておけ、あの子に手を出そうとする相手は誰だろうと吸血鬼の次期王である俺を敵に回す事を……忘れるな」
それは目の前の死体に言ったのか、それともこの学院に通う生徒全てに言ったのか分からなかった。
ただ、血に染まった彼自身はとても美しく……狂気を秘めていた。
あの子に害なす者は誰だろうと許さない、たとえそれがアイツでも…
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