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第37話

※瑞樹視点 それはとても懐かしくて昔の記憶のような夢を見た。 辛い事があっても俺はその人達の存在を支えに生きてきた。 ……だけど、いつしか考える事を忘れてしまった。 大切にしてた記憶なのに、なんでこんなに簡単に忘れてしまうのか悲しくなる。 霧で顔が隠れていて見えない、ノイズで声が聞こえない。 ただ、手の温もりと青い薔薇の花だけは覚えている。 「んっ…ん…」 もうすぐ梅雨だというのに、肌寒くて夢から覚める。 布団を手探りで掴み寄せて丸まり再び夢の中に行こうとする。 ……今日は休日だ、少しだけ寝坊してもいいよな。 もぞもぞと布団が動いた。 ……ん? なんか変な感じがしてまだ眠たい目蓋を少し開けて布団を捲ると気持ち良さそうに俺に抱きついて寝てる玲音がいた。 「………何してんだ?」 小さな声でそう言うのがやっとだった。 寝相が悪いのか?いや、それにしても人の部屋に開けて入ってくるだろうか……夢遊病ではないのか?それは… そんな事をボーッと考える俺の朝はこうして始まった。 幸せそうに寝てるし無理矢理起こすのも可哀想だと思ってジッとしていたら、もぞもぞと玲音の手が俺の服の中をまさぐってきた。 昨日風呂場のアレを思い出してしまい顔に熱が溜まる。 結果、ついベッドから足蹴りして突き飛ばした。 驚いたとはいえやりすぎたと慌てて玲音に駆け寄る。 「悪い!大丈夫か?」 ベッドから出て壁に寄りかかってうとうとしてる玲音の側に寄る。 二度寝する気にはならず、俺の眠気はもう何処かに吹っ飛んでいた。 玲音は今起きたのか目をぱちくりしてこちらを見ていた。 まだ玲音は睡魔と戦っているのか状況を理解していなかった。 目を擦り寝ぼけ目からいつもの玲音に戻り驚いていた。 あの事俺の頬をぺたぺた触り本当に俺かどうか確かめていた。 「あれ瑞樹、なんで俺の部屋にいるの?」 「……それは俺のセリフなんだが…なんで俺の部屋にいるんだ?」 お互い首を傾げて今の状況がイマイチ分からなかった。 周りを見る、玲音の自室は行った事ないから分からないが昨日の教材が入った段ボールやマギカクラスの制服があるから俺の部屋で間違いなさそうだ。 玲音は俺に謝り自室を出て行き、俺は寝間着に使ってたパーカーとジャージを脱ぎ私服に着替えた。 此処に来て初めての休日だからか、何も予定を考えていなかった。 自室を出たら、玲音も服を着替えたのか黒のワイシャツにジーパンで俺の部屋の横に寄りかかって待っていた。 もう着替えたのか、さっき出たばかりだと思ったら早いな。 玲音は体つきが何処も無駄なく綺麗だから 何でも似合うが、前髪が残念だ……物凄く残念だ。 「玲音、元はいいんだから前髪切ったらどうだ?前見えなくないか?」 「いいよ!!見えるし!!」 軽く言ったつもりだったが玲音に強く全力否定された。 玲音にも事情があったのに気軽に聞いてしまったと反省する。 玲音に謝ると玲音は「気にしてないよ!」と言ってくれた。 朝からお互い謝ってばかりだなと二人で笑い合う。 自炊もいいんだけど、食堂が確かあったんだよな。 せっかくだし、一度食堂に行ってみたいな…食堂にも人間の食べ物はあるだろうか。 「瑞樹、今日も一緒に作るの?」 「いや、今日は食堂にでも行こうかな」 「……そっかー」 玲音はとても残念そうにしていて肩を落としていた。 玲音が料理に興味を持ってくれただけで俺は嬉しい。 今日は携帯道具があるから玲音に奢ってもらう心配がない。 でも玲音が行きたくないなら玲音のぶんの朝食作ろうかと提案すると玲音は首を思いっきり横に降った。 俺のわがままに付き合わせてごめんな、玲音…今度はちゃんと作るから。 廊下を出て歩きながら、さっきの自室での出来事の会話をした。 「なんか最近夜が寒くて温もりを求めてたら瑞樹の部屋に潜り込んだみたい」 「俺も暖かかったから別にいいけど、今度から事前に言ってくれ…知らない間に玲音を下敷きにしてしまうかもしれない」 「えへへ、いいよー瑞樹に押し倒されるなら!!」 押し倒すとは違うと思うが、まぁ玲音が嬉しそうならいいか。 玲音の案内で食堂に向かう途中で飛鳥くん達にも知らせようと携帯道具をズボンのポケットから取り出した。 いつも一緒に朝食を食べてるから行き違いになるかもしれないし… そうだ、携帯道具を貰ったから紅葉さんに知らせに行こう。 平日の予定は聞いたけど休日は聞いていなかったな。 学院にいるだろうか、朝食食べたら行ってみよう。 食堂に近付くとなんかがやがやと騒がしい声がした。 「なんだ?」 「さぁ…なにかあったのかな」 俺と玲音は食堂の入り口が騒がしい事に不思議に思い、集まる生徒達を必死に掻き分け中に入った。 そこには俺のよく見知った二人が向い合わせで立っていた。 しかし、何だか不穏な雰囲気が二人を包んでいた。 周りのテーブルや椅子が無惨に倒れていて乱闘の後みたいだ。 もしかして本当にこんなところで乱闘してたんじゃないよな? しかも10対1だよな、どう見ても一人が不利に思える。 「これじゃあご飯食えないね」 「……そ、だな」 もう食事とかそれどころではないよな、この状況。 食堂は諦めて朝食はチェルシー堂で適当買って食うか。 残念だけど今はそんな事より二人が心配だった。 騒ぎの中心である一人の人物が大きな声を出した。 食堂中に響く声は食堂だけではなく野次馬がいる廊下まで響いた。 俺は慣れているからあまり気にならないが、玲音は顔を険しくしながら耳を押さえていた。 「俺はお前の事分かってやれるぞ!!だから安心しろ!!」 相変わらず大ボリュームの学兄さんの声が相手に向かっていた。 後ろの取り巻きは学兄さんに賛同したり相手を罵倒したりしている。 初めて見た、あれが親衛隊と言われていたやつだろうか。 小学、中学の頃の学兄さんの周りにいた人達と学兄さんを崇拝しているのは同じだが少し違うような雰囲気の人もいた。 なんだろうこの違和感…今の俺にはよく分からなかった。 相手が一歩近付くと皆ビクッと後ずさった、どうやら口先だけだったようだ。 「俺の何を知ってるって?溝鼠共」 昨日会って学兄さんが物凄く嫌いなんだなと思っていた誓司先輩は吐き捨てるように言い近くにある椅子を蹴飛ばした。 大きな音を立てて椅子が転がる事はなく、砕けた。 昨日もそうだったが、誓司先輩ってかなりの怪力だよな。 学兄さんが確実に有利なのに(人数的に)勝ち目がないように思えた。 いくら周りが強くても学兄さんは人間だからあまり無理をしない方がいい気がする。 …俺なんかに心配されるのはプライドで嫌だと思うけど… 学兄さんはまだめげないようで一歩前に踏み出す。 「お前が吸血鬼の次期王なんだろ!!婚約者の俺にそんな事しちゃいけないんだぞ!謝れよ!!」 「はぁ?何の話だよ、お前学習能力ねぇのか?寝言は寝て言え……それとも永眠させてやろうか」 誓司先輩が吸血鬼の次期王?あれ…でも玲音の説明だと姫騎士だよな。 名前通りの姫騎士は姫を守る護衛だから吸血鬼の次期王ではないんじゃ…(誓司先輩は全く学兄さんを守ろうとしてないが) 確かに俺を助けてくれた時強かったけど、どうなんだろう。 周りも誓司先輩達の会話を聞いてざわついていた。 唯一玲音だけが興味なさそうに欠伸をしていた。 「瑞樹、帰ろう」と俺の服を軽く引っ張り言っている。 しかし、このままほっとけるわけがなくどうしようかと悩む。 「えっ、ジョーカーが吸血鬼の次期王?」 「あのやる気ないジョーカーが?マジ?」 「そういえば昨日物凄い喧嘩してたって聞いたな」

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